先日、区分マンションを5棟保有している40代の社長からこんな相談を受けました。「知人から『法人化したら経費が一気に増えて節税できる』と聞いたんですが、本当ですか?」
その問いへの答えは「半分、正しい」です。法人化すると経費の枠は確かに広がります。ただ、節税効果の「計算の仕方」で大きな誤解が生じやすいのです。今日はその誤解を丁寧に解きほぐしていきます。
個人と法人、経費として認められる範囲がこれだけ違う
個人で不動産を保有している場合、経費として認められるのは不動産所得に直結する費用に限られます。修繕費、管理委託費、減価償却費、固定資産税といった項目です。生活費と事業費の線引きが厳格で、特に「自分の住居費」を経費化する余地はほとんどありません。
一方、法人として不動産を持つと、同じ修繕費・管理費に加えて役員社宅制度が使えるようになります。会社名義で物件を借り(または保有し)、役員に転貸する仕組みで、会社が負担する家賃の一部を法人経費として計上できます。物件の規模や構造によっては、個人保有と比べて経費率が30%近く広がるケースも実際にあります。
「経費が100万増えた=100万得した」は危険な誤解
ここが今日のいちばん大事なポイントです。経費が増えることと、節税額はイコールではありません。
節税額の計算式はこうなります。
節税額 = 経費増加額 × 実効税率
中小法人が適用を受けられる軽減税率ベースで、課税所得800万円以下の実効税率は約22%です。つまり、法人化によって年間100万円の経費が増えたとしても、税金として戻ってくるのは約22万円。100万円ではありません。
「経費が100万増えるなら、税金が100万減る」と思い込んでいる社長が多いのですが、実際に手元に残る効果はその5分の1程度です。法人維持にかかる費用(登記費用・顧問料・社会保険の会社負担増など)と天秤にかけると、意外に薄い計算になることもあります。
役員社宅の経費化、見落としがちな落とし穴
役員社宅制度を使う場合、国税庁が定めた計算式で算出した賃料相当額を役員が会社に支払う必要があります。この負担をゼロにしてしまうと、差額分が「役員への現物給与」とみなされ、給与課税の対象になります。
税務調査で指摘されると、経費否認だけでなく源泉所得税の追徴という二重の痛手になりかねません。賃料相当額の計算は物件の固定資産税評価額や延べ床面積によって異なるため、「うちはいくら払えばいい?」という判断は必ず専門家に確認しておきましょう。
法人化を検討すべきタイミングはいつか
節税額22万円だけで見ると割に合わなく感じるかもしれませんが、法人化のメリットはそれだけではありません。役員報酬として家族に所得を分散できること、相続対策として自社株評価の引き下げに活用できること、金融機関からの信用力が上がることなど、複合的な効果があります。
目安として、年間の不動産所得が500万円を超えてきたあたりから、法人化のシミュレーションを税理士と一緒に行うことをおすすめします。感覚で「得か損か」を判断するのではなく、実際の数字を出してから意思決定するのが後悔のない進め方です。
まだ個人で保有していて「法人化が自分に合うか試算したことがない」という方は、まず不動産専門の税理士に相談してみてください。節税の話は、正確な前提数値があってはじめて意味を持ちます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。