先日、年商2,000万円ほどの個人事業主の方からこんな相談を受けました。
「毎年、決算のたびに税金がきつくて。でも法人化って面倒くさそうで、ずっと後回しにしているんです」
事業は安定してきた段階で、自宅を仕事場として使い、車も移動に使い、生命保険にも加入している。そこで試算してみると、もし法人化していれば経費にできた支出が、年間で100万円を軽く超えていました。
「後回しにするのがいちばん損だったんですね」と、その方は苦笑いしていました。
法人になって初めて使える「経費の引き出し」がある
個人事業主でも経費は計上できますが、法人にしか使えない経費の仕組みがあります。代表的なのが役員社宅です。
法人が物件を借り上げ、役員に転貸するスキームを使うと、家賃の大部分を会社の損金にできます。役員の自己負担は家賃の1〜2割程度が目安で、残りは法人の経費になります。たとえば月15万円の物件なら、役員負担は2〜3万円ほど。毎月12万円前後が経費になるので、年間140万円以上の損金が生まれる計算です。これが個人事業主では使えません。
社用車も同様です。個人事業主でも事業使用割合に応じた按分は可能ですが、法人なら取得費・維持費・ガソリン・保険・車検代をまとめて損金処理しやすくなります。高級車でも、リースや減価償却を通じて計上できる幅が広がります。
見落とされがちなのが、法人契約の保険料です。保険の種類によっては保険料の一部または全額を損金算入でき、役員退職金の原資にもなります。節税しながら将来の備えも作れる、一石二鳥の仕組みです。
「年100万円の経費増加」が意味する数字
これらの項目を合算すると、法人化によって年100万円規模の新しい経費が生まれることは珍しくありません。
法人の実効税率は中小企業で概ね25〜35%ほど。仮に30%で計算すると、100万円の経費増加で約30万円の節税になります。
一方、法人の維持コストも発生します。税理士報酬・法人住民税の均等割・各種手続き費用など、年間の目安は30万円前後です。
つまり経費が年100万円増えれば「節税30万円 − 維持コスト30万円 ≒ ほぼプラマイゼロ」という水準になります。経費項目がさらに多ければ、明確にプラスに転じます。個人事業のまま続けるということは、その差分だけ毎年見えないところで損し続けていると言えます。
ただし、法人化が全員に正解とは限らない
大事な注意点として、法人化の損得は事業の規模と経費の中身によって大きく変わります。
在宅完結型の仕事で社用車もなく、家賃も個人負担で問題ない場合は、使える経費の引き出しがそれほど増えません。維持コストだけかかって損、という結果になることもあります。
また法人化すると社会保険への加入が義務になるため、役員報酬の設定次第では社会保険料の負担が重くなる面もあります。「節税になると聞いたから」という理由だけで法人化して後悔するケースも実際にあります。
判断のポイントは「自分の支出の中に、法人でなければ経費にできないものがどれだけあるか」を具体的に洗い出すことです。自宅家賃・車・保険・役員への退職金積み立てなど、心当たりがある項目を一度リストアップしてみてください。
今期の決算前に試算を依頼してほしい理由
法人化の損得を自分で計算しようとすると、社会保険料の増加・役員報酬の設定・消費税の扱いなど変数が多く、なかなか正確な判断が難しいものです。
「法人化すべきか?」という問いは、税理士への相談案件として費用対効果が高い部類に入ります。試算だけなら初回相談で対応してくれる事務所も多いです。
年商1,000万円を超えてきた方、あるいは自宅・車・保険など「法人なら経費にできそうなもの」に心当たりがある方は、今期の決算前に一度、試算を依頼してみてください。年100万円の差が毎年積み重なれば、10年で1,000万円です。後回しにするコストは、思っているよりずっと大きいはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。