先日、年商3,000万円ほどのコンサルタントの方からこんな相談を受けました。「税理士に法人化を勧められているんですが、正直どこが得なのかよくわからなくて」と。
話を聞いていくと、自宅を使って仕事をしていて、奥さんも経理や顧客対応を実際に手伝っているとのこと。「それ、法人化したら毎年400万円以上の経費が増える可能性がありますよ」と伝えたら、コーヒーカップを置く手が止まりました。
「経費の壁」は個人と法人でここまで違う
個人事業主でも経費は使えます。ただ、使える経費の種類と金額に、法人とは大きな差があります。その差が年間400万円を超えることがある、というのが今回お話ししたいことです。
代表的なのが「役員社宅」と「配偶者への役員報酬」の2つです。どちらも法人にして初めて本格的に使えるようになる手法で、組み合わせると効果が大きくなります。
役員社宅:家賃の大部分を法人経費に変える
法人が物件を借り上げ、そこに役員が住む形を「役員社宅」といいます。役員が負担するのは国税庁の計算式で決まる「自己負担額」だけで、残りは法人の経費になります。
月20万円の家賃を例にとりましょう。個人事業主が自宅兼事務所として経費にできるのは、仕事スペースの割合分だけです。一方、法人が借り上げた役員社宅なら、自己負担額は一般的な物件で家賃の10〜20%程度に収まります。月2〜4万円の負担で、残り16〜18万円が法人経費になる計算です。
年間にすると160〜200万円の経費が生まれます。今まで全額を税引き後のお金で払っていた家賃が、大部分は税金のかかる前のお金で賄えるようになるわけです。
配偶者を役員に:報酬の全額が法人経費になる
個人事業主でも「青色事業専従者給与」として配偶者への給与を経費にする制度はあります。ただ、届出の手続きや金額の妥当性の判断がやや複雑です。
法人であれば、実際に業務を担当している配偶者を役員として登記し、役員報酬を支払えば全額が法人経費になります。年収200〜300万円の報酬を設定すれば、法人側では経費が増え、配偶者側には給与所得控除が適用されます。所得を分散しながら経費も増やせる、一石二鳥の手法です。
役員社宅と合わせると、年間400万円を超える経費増が見えてきます。
数字で見ると:毎年92万円、10年で920万円の差
年400万円の経費増に、中小企業(所得800万円以下)の実効税率23%を掛けてみます。
400万円 × 23% = 92万円の節税
これが毎年積み上がります。「来期からやろう」と1年先送りするだけで、92万円を余分に払うことになります。10年続ければ差額は920万円。先送りはただの損失です。
法人化で必ず確認しておきたい注意点
役員社宅の計算方法は、建物の規模や豪華さによって変わります。また、配偶者への報酬は実態のある業務が伴っていることが前提です。実態のない名目だけの役員報酬は、税務調査で否認されるリスクがあります。
法人化には、赤字でも年7万円程度かかる法人住民税の均等割や、社会保険の加入義務といったコスト面のデメリットもあります。トータルで得になるかどうかは、現在の売上・家族構成・住居の状況で変わります。
自宅を仕事に使っている方、家族が実際に手伝ってくれている方は、一度「法人化でどのくらい経費が増えるか」をシミュレーションしてもらうことをおすすめします。売上が安定してきたタイミングで一度試算してみるだけで、毎年の手取りが大きく変わることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。