先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「節税のために法人でマンションを買ったのに、いざ息子に株を渡そうとしたら税理士から5000万円の増税試算が届いた。何かの間違いじゃないか」と。

間違いではありません。むしろ、法人に不動産を持たせるスキームには最初からこの落とし穴が潜んでいます。今日はその仕組みをできるだけわかりやすくお伝えします。

「節税のつもり」が5000万円の増税に化けた理由

愛知県で製造業を営む小林社長(仮名)の話です。数年前、「法人名義で不動産を持つと法人税が圧縮できる」とアドバイスを受け、マンション数棟を計2億円で法人に取得しました。減価償却費で利益を圧縮でき、賃料も法人収入として管理できる。たしかに短期的な節税効果は出ていました。

「資産も増えるし、いずれ息子への事業承継にも役立てよう」という算段でした。ところが数年後、息子への株式移転を検討し始めたとき、税理士から届いた試算書に目が点になります。贈与税・相続税の負担が、約5000万円も跳ね上がっていたのです。

鍵を握るのが「純資産価額法」という評価方式

なぜこんなことが起きるのか。ポイントは非上場株式の評価方法にあります。

上場企業の株と違い、非上場会社の株には市場価格がありません。税務上は「純資産価額法」などで評価額を計算しますが、この方式では法人が保有する資産を時価で洗い直します。帳簿上の取得価額ではなく、評価時点の市場価値で計算し直すのです。

小林社長の法人が買ったマンションは、購入時こそ計2億円でした。しかしその後の不動産市況の上昇で含み益が膨らみ、時価ベースの純資産が1.5億円以上も増えていました。純資産が増えれば株式の評価額も上がる。評価額が上がれば、息子への贈与・相続にかかる税金も増える。その差分が約5000万円になっていたわけです。

節税と事業承継は「別々の設計」が必要

法人に不動産を持たせること自体が間違いではありません。法人税の観点では、減価償却費の計上や個人所得税の圧縮など、効果が出るケースは確かにあります。

ただし、事業承継まで見据えると話は変わります。法人の不動産が増えるほど株式評価が上がり、次世代への移転コストが増えるというシンプルな連鎖があります。

仮に毎年の節税額が200〜300万円だったとしても、5000万円のコスト増を回収するには15〜25年かかる計算です。「毎年の節税」だけを見て意思決定すると、10年後に大きなツケが回ってくるのです。

設計次第で両立は可能

では「法人に不動産を置かない」が正解かというと、それも短絡的です。以下のような視点を最初から組み込んでおけば、節税と事業承継の両立は十分に狙えます。

  • 承継時の「株式評価の出口戦略」を購入前に設計しておく(持株会社スキームや種類株式の活用など)
  • 不動産の含み益が膨らんでいないか、年に一度は試算を確認する
  • 承継時期が近づいたら早めに評価引き下げ策を検討する(借入金バランスや賃貸条件の見直しを含む)

特に今は不動産市況が高い水準にあります。購入時には想定していなかった含み益が、数年後に思わぬ税負担として顕在化するリスクは小さくありません。

まず「自社株の試算」から動いてほしい

法人に不動産を持っている社長に、一つだけお願いがあります。「直近の不動産時価をベースに、自社株の評価額を試算したことがありますか?」という問いに、ぜひ答えてみてください。

もし「ない」なら、今すぐ税理士に頼んで試算してもらうことをおすすめします。特に10年以内に承継を考えているなら、なおさらです。不動産×法人×事業承継の掛け合わせは複雑ですが、早めに動けば打てる手も増えます。まだ確認していない方は、今期中に一度、専門家への相談を検討してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。