先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。「自分名義のマンションの管理費や修繕費を経費で落としていたんですが、税務調査で全部ダメって言われました」。

驚いたのは、その金額です。否認された経費は年間で230万円超。追徴税額と延滞税を合わせると、ざっと100万円以上を一度に支払う羽目になりました。

「ちゃんと不動産収入があって、それに関係する経費なのに、なぜ認めてもらえないんですか」。その言葉が、今でも印象に残っています。

8割が否認される現実

個人名義で不動産を持つ社長が、修繕費・管理費・現地への交通費を経費計上しているケースは珍しくありません。不動産収入に関係する支出ですから、経費になるはずです。

ところが、税務調査の現場では「否認」が頻発しています。私がこれまで見聞きした事例では、調査に入られた場合の否認率はざっくり8割に達します。なぜ、これほど多くの経費が消えてしまうのか。理由は主に3つのパターンに集約されます。

否認パターン① 修繕費が「資本的支出」と判断される

修繕費として一括経費にできるのは、あくまで「原状回復」のための支出に限られます。雨漏りを直した、壁の穴を塞いだ、というレベルなら問題ありません。

ところが、キッチンをIHに交換した、バスルームを全面リフォームした、二部屋を一部屋に改装したといったケースは、「資産の価値を高める支出」として資本的支出に分類されます。一括で経費にはできず、数十年かけて減価償却するしかありません。

税務調査官はここを執拗に確認します。「この工事の前後で、物件の使い勝手や価値は変わりましたか?」という問いに、明確に答えられないと否認の標的になります。

否認パターン② 管理業務の実態が確認できない

「管理費」として計上していても、業務の実態を問われると答えられない社長が多いのです。

具体的には、こんな質問が飛んできます。入居者との連絡は誰が、どんな方法でしていますか? 家賃の集金はどういう仕組みですか? 物件の巡回頻度と記録はありますか?

管理会社に委託していれば委託契約書と請求書で説明できますが、自主管理で業務日誌も記録もない場合、「実態のない経費」と判断されます。月5万円の管理費でも年60万円。3年分まとめて否認されれば180万円の損失です。

否認パターン③ 按分根拠が曖昧

自宅兼賃貸物件で、電気代や通信費を按分して経費計上しているケースがあります。「大体6割が事業用だから」と感覚で按分していると、調査の際に根拠を問われます。

面積比、使用時間、アクセスログなど、客観的な資料がなければ按分そのものが否定されることがあります。交通費も同様で、「視察のため」と記録しても、目的地や業務上の必要性が説明できない分は否認されます。

3つが重なると、一気に200万円が消える

問題なのは、これらが複合的に発生するケースです。

修繕費で100万円否認、管理費で60万円否認、按分交通費で40万円否認。合計200万円超の経費が一度の調査で消えることも、決して珍しくありません。さらに追徴税額、延滞税、場合によっては過少申告加算税が乗ってくる。修正申告後の実負担が、当初の見込みの2倍近くになるケースも実際に存在します。

法人名義にすると何が変わるか

根本的な対策として検討してほしいのが、法人名義への移転です。

法人で不動産を保有すると、事業実態が帳簿・議事録・契約書として自然に残ります。税務調査官が「なぜこの支出が事業上必要なのか」を問うとき、こちらも答えやすくなります。否認リスクは個人名義の場合と比べて、明らかに低くなります。

もちろん法人化には不動産取得税や登記費用、場合によっては融資の組み直しが必要になることもある。ご自身の状況によって最適解は違いますから、「法人化すれば全部解決」とは言えません。ただ、「税務調査で200万円消えた」という後悔と、法人化のコストを天秤にかけると、答えはひとつではないはずです。

今すぐできる3つの備え

法人化の判断に時間がかかるとしても、個人名義のまま不動産を持つなら、今日から整備できることがあります。

修繕工事は前後の写真を撮り、「原状回復か資本的支出か」を税理士に確認する習慣をつける。管理業務は、入居者との連絡履歴や巡回記録を残す。按分は面積比や使用時間など、客観的な根拠を揃えておく。

これだけで、調査が入ったときの対応力は大きく変わります。修繕費の区分ルールをまだ整備できていないなら、今年の申告を機に税理士と一度確認してみることをおすすめします。「知らなかった」では、追徴税額は戻ってきません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。