先日、相続を専門とする税理士から聞いた話が、頭から離れません。

大阪で建設業を30年近く営んでいた田中社長(享年62歳)。コツコツと積み上げた法人名義の不動産は、時価にして3億円を超えていました。でも、事業承継の準備は何ひとつしていなかった。そこに、突然の心筋梗塞が来たのです。

「あと1年、対策を始めていれば」と、その税理士は静かに言っていました。

相続が来たとき、不動産3億円はどう評価されるか

法人名義の不動産を持っている社長に、まず知っておいてほしいことがあります。

会社の資産として持っている不動産は、相続発生時に「株式の価値」として評価されます。非上場の中小企業では純資産価額方式という評価方法が使われることが多く、これは会社が持つ資産を時価で合計した額が株式の評価額になるというものです。

つまり、3億円の不動産を持つ会社の株式は、3億円相当の価値があるとみなされ、そこに相続税が課されます。現金で持っているのと変わらない、あるいはそれ以上の重さで課税されるケースも珍しくありません。

息子を待ち受けていた「払えない相続税」

田中社長の息子さんは、父が亡くなった後に現実を突きつけられました。

相続税の請求額は想定をはるかに超えていた。会社の株式を売ろうにも、非上場株式に買い手はいない。銀行借入で対応しようにも、限度がある。最終的に、会社が保有していた不動産を売却して税金を捻出するしかなかった、というのです。

父親が20年かけて築いた資産が、相続税の支払いのために消えていく。そのプロセスは数ヶ月にわたり、経営の継続そのものが揺らいだといいます。

「知っていれば使えた」対策が2つある

田中社長のケースで何より悔やまれるのは、手を打てる方法があったという点です。

ひとつは事業承継税制の特例措置。後継者が非上場株式を相続・贈与で取得した場合、一定要件を満たせば相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。ただし、この特例を活用するには2027年12月末までに「特例承継計画」を都道府県に提出しておく必要があります。

もうひとつは持株会社の活用です。不動産保有会社と事業会社を分離・再編することで、株式の評価額を圧縮できる場合があります。設計次第では、評価を数千万円単位で下げることも不可能ではありません。

どちらも、事前に動いていれば選べた手段でした。田中社長は知らなかっただけです。

2027年12月まで、1年半しかない

事業承継税制の特例期限まで、残り1年半を切っています。

「まだ自分には先の話」と感じている社長も多いと思います。でも田中社長も、そう思っていたはずです。心筋梗塞も脳卒中も、60代であれば他人事ではありません。

今すぐ後継者を決める必要はありません。まず手をつけるべきは、自社株式の評価額を把握することです。今、相続が発生したとすれば、どれだけの相続税が発生するのか——この数字を知っているだけで、行動のスピードが変わります。

法人名義で不動産を持っている社長は、特に注意が必要です。含み益が大きい不動産ほど、株式評価も膨らみます。3億円の不動産があれば、相続税だけで1億円を超えることも十分あり得ます。

対策には時間がかかります。持株会社の設立も事業承継計画の策定も、半年・1年がかりになることが多い。「そのうちやろう」では間に合わない可能性があります。

2027年末の期限が迫っている今こそ、事業承継に詳しい税理士への相談を一度検討してみてください。話を聞いてみると、想定外のリスクと対策が見えてくるものです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。