先日、東京都内で不動産管理会社を経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を継がせようと思って、株の評価額を計算してもらったんだ。そうしたら2億円近くになっていて。相続税を払ったら、息子がすぐに会社を売るしかなくなるかもしれない」

その会社が保有するのは、15年前に2億円で買ったビル1棟。今の時価は4億円近く。含み益だけで約2億円ある状態です。「なぜこんなに評価が上がるのか」——そこには不動産法人ならではの落とし穴があります。

不動産法人の株式評価が「爆上がり」するしくみ

非上場株式の相続税評価には複数の方法がありますが、不動産を多く保有する法人には「純資産価額方式」が適用されることがほとんどです。

この方式の恐ろしいところは、含み益も評価額に含めて計算する点です。帳簿上の資産と負債の差額をベースにするため、時価が上がった物件を持っているだけで株式評価額が一気に跳ね上がります。

購入価格2億円のビルが時価4億円になっているケースなら、差額2億円(法人税相当額の控除はあり)が株式評価に上乗せされます。相続税率を踏まえると、これだけで数千万円から1億円超の税負担になることも珍しくありません。

知らないと損する「特例措置」の存在

こうした問題に対処するために設けられたのが、「事業承継税制の特例措置」です。後継者が引き継ぐ株式に対する贈与税・相続税を、最大100%猶予(実質的に免除)できる制度で、正しく使えば1億円単位の税負担を先送りにできます。

ただし、この特例を使うには絶対に外せない条件があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することです。この手続きを踏まなければ、どれだけ優れた承継設計をしても、この特例は一切適用されません。

「まだ2年以上ある」と感じるかもしれませんが、計画策定・顧問税理士との協議・書類準備を考えると、今から動き出さないと間に合わないケースも出てきています。

猶予が続く限り、税金は実質ゼロ

特例措置では、猶予が取り消されない限り贈与税・相続税は実質的に免除されます。猶予を維持するためには、主に以下の条件を5年間守ることが求められます。

  • 後継者が代表者として経営を続けること
  • 事業を廃止・売却しないこと
  • 雇用の一定水準を維持すること(特例では弾力的な運用が認められています)

5年が経過した後も猶予は継続し、後継者が亡くなるか次の世代に承継するまで、税金は猶予されたままになります。冒頭の社長のケースなら、この制度を活用することで1億円超の税負担を回避できる計算になります。

「含み益を抱えたまま相続」が最もリスクが高い

物件を保有したまま会社ごと相続するパターンは、一番危険な選択肢です。含み益がそのまま評価額に乗るため、不動産の時価が上がるほど相続税も膨らんでいきます。

対策として考えられるのは、大きく3つです。

  • 事業承継税制の特例で株式評価ごと猶予する方法
  • 物件の一部を個人に移転して法人評価額を引き下げる方法
  • 法人を分割・再編して承継対象の資産構成を整理する方法

どれが最適かは、含み益の金額・借入残高・後継者との関係・承継の時期によって変わります。選択肢を増やすためにも、早い段階で税理士と試算しておくことが重要です。

「計画提出だけ」でも今期中に動いておく

2027年末の提出期限は一見遠く感じますが、特例承継計画の策定には税理士・場合によっては弁護士との連携が必要で、書類準備だけで数ヶ月かかるケースも少なくありません。

不動産を保有する法人を経営していて、まだ承継の設計に着手していないなら、今期中に顧問税理士へ「特例承継計画の提出スケジュール」を確認することを強くおすすめします。準備を先送りした結果、守れたはずの1億円が税金で消えた——そんな後悔をしないための第一歩は、今すぐ動くことです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。