先日、年商3億円の建設会社を経営するSさんから、こんな相談を受けました。「決算が近づいて税理士と話したら、思ったより法人税が高くて……。もっと早く手を打てばよかったです」
Sさんは期初に役員報酬を2,400万円と設定し、期末が近づいてから節税策を探し始めていました。実は、このパターンで損をしている社長がとても多いのです。
報酬を先に決めると、なぜ損するのか
問題の核心は「決める順番」です。
多くの社長は期初に「今期の役員報酬はこれくらいにしよう」と決めます。それ自体は悪くありません。ただ、その後に社宅・社用車・法人保険などの経費化を検討しようとしても、報酬の金額がすでに固定されているため、最適化の余地が大幅に狭まってしまいます。
報酬を先に決めることで、個人の課税所得が確定してしまう。すると、後から法人経費を積み上げても、個人側の税負担はほとんど変わらないのです。
正しい順番は「経費が先、報酬は後」
本来の手順は、こうあるべきです。
まず、社宅・社用車・法人保険といった経費化できるものをすべて先に法人の経費として計上します。社宅は個人で家賃を全額自腹で払うより法人が借り上げる形にすると、大半を経費化できます。社用車も同様です。こうした経費を積み上げてから法人の残余利益を確認します。
そのうえで「では、いくらを役員報酬として受け取るか」を判断する。このシンプルな順番の違いが、税負担に大きな差を生み出すのです。
年収2000万円クラスでは年600万円以上の差が出ることも
年収ベースで2,000万円を超える社長の場合、経費化を先に済ませてから報酬額を設定することで、課税対象となる所得が年間600万円以上圧縮できるケースがあります。
所得税の最高税率は45%、住民税10%を加えると55%近くになります。課税所得が600万円圧縮されれば、手元に残るお金は300万円単位で変わってくることも十分あり得ます。
もちろんこれは一例であり、会社の規模・利益水準・家族構成によって最適な数字は変わります。ただ、順番を変えるだけでこれだけの差が出るという事実は、知っておいて損はありません。
先に経費化したい3つの項目
**社宅(法人借り上げ住居)**は、社長個人が家賃を自腹で払うより、法人が物件を借り上げて社宅として提供する形にすると、家賃の大部分を法人経費にできます。社長の自己負担は法定の賃貸料相当額のみです。
社用車は、業務利用の実態があれば購入・リース費用・維持費を法人経費に計上できます。ただしプライベート利用の割合が高い場合は按分が必要で、税務調査でも目が向きやすいポイントです。
法人保険は商品によって損金算入率が異なります。節税目的だけでなく、経営者に万一のことがあった場合のリスクヘッジとしての必要性も踏まえて選ぶのが賢明です。
役員報酬は年に1回しか変えられない
忘れてはならない制約があります。役員報酬は原則として事業年度開始から3か月以内に定める必要があります(定期同額給与の要件)。一度決めたら期中に変更すると、変更額が損金不算入になってしまいます。
だからこそ、期初の「役員報酬を決める前」に経費化の設計を終わらせておくことが重要なのです。決算間近に焦って動いても、役員報酬はもう変えられない——これがSさんのような状況を生む原因です。
年度の変わり目は、こうした設計を見直す絶好のタイミングです。「去年と同じでいいか」と流してしまう前に、まず経費化できるものの棚卸しから税理士と話してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。