先日、ある社長からこんな連絡が届きました。
「役員報酬を変えたいと思っているんですが、いつまでに動けばいいですか?」
3月決算の会社を経営されているその方は、今期の業績が前年を大きく上回りそうとのこと。設定を見直したいと考えていたそうです。
「今なら間に合います。ただ、残り時間はあまりありません」とお伝えしました。
この社長は運がよかったほうです。以前、同じ状況で1ヶ月遅く連絡してきた方には、「もう今年はできません」と伝えるしかありませんでした。電話口で、しばらく沈黙が続きました。
役員報酬は「年1回しか」変えられない
多くの社長がご存じないのですが、役員報酬には大きな制約があります。
税務上「損金算入」が認められる役員報酬のことを「定期同額給与」と呼びます。これは毎月同じ金額が支払われる給与のことで、変更できるのは原則として「事業年度の開始から3か月以内」だけです。
3月決算の会社であれば、新しい事業年度は4月1日から始まりますから、改定できる期限は6月末まで。言い換えれば、今月中に動き出さないと、あとは6月の残りわずかな時間しか残っていないことになります。
高すぎても低すぎても損をする
では、なぜ役員報酬の最適化が重要なのでしょうか。
結論から言えば、「高すぎても低すぎても税負担が重くなる」からです。
まず報酬が高すぎるケース。個人の所得税・住民税は、収入が増えるほど税率が上がります。最高税率は所得税と住民税を合わせて55%。これに社会保険料が加わると、もらったお金の半分以上が税金になることもあります。高い報酬帯では税率が跳ね上がるため、報酬を増やしても手取りへの恩恵が思ったより少ない、ということが起こります。
一方、報酬を低く抑えすぎると、今度は法人に利益が積み上がります。中小企業の法人税等は、年間800万円を超える利益の部分に約34%が課税されます。手元に残しているつもりが、知らぬ間に税金として出ていくわけです。
年間数百万円の差が出ることも
「最適化」と言うのは簡単ですが、実際にはどれくらいの差が生まれるのでしょうか。
ケースによりますが、役員報酬の設定次第で年間数百万円単位の差が出ることは珍しくありません。
たとえば法人の利益が年間1,500万円出ているケースで、役員報酬が700万円の場合と1,200万円の場合では、法人税と個人の所得税を合計した税負担は大きく変わります。「どちらがお得か」は社会保険料や他の収入も含めて試算しないと一概には言えませんが、それだけに専門家のサポートが重要になります。
見直しの際に確認したいこと
役員報酬の改定を検討する際には、いくつかのポイントを確認しておく必要があります。
まず、今期の利益着地をある程度見通すことです。「今のままいくと、法人の利益はどれくらいになりそうか」を顧問税理士と一緒に試算してみてください。前期の実績と今期の売上トレンドを合わせれば、おおよその着地は見えてくるはずです。
次に、個人側の収入全体を把握すること。役員報酬以外に不動産収入や配当収入がある方は、それらを合算した上で税率を考える必要があります。
また、社会保険料の影響も見落とせません。報酬が増えると健康保険料や厚生年金保険料も増加しますから、「手取りが本当に増えるのか」を確かめることが大切です。
今月中に動き出すことをおすすめします
改定を決断したとしても、株主総会の開催や議事録の作成、税務書類の準備など、実際の手続きには時間がかかります。6月末ギリギリに動いても間に合わないケースもあります。
特に以下のような方は、今すぐ顧問税理士に連絡してみてください。
- 前期と比べて業績が大きく変わった(上振れ・下振れ両方)
- 役員報酬の金額を2年以上変えていない
- そもそも改定できる期限を知らなかった
役員報酬の見直しは、節税効果が高い一方で「タイミングを逃すと何もできない」という性質を持っています。1年に1度しかないチャンスを、ぜひ有効に活かしてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。