先日、建設業を営む息子さんからこんな連絡をいただきました。「父が急に亡くなって、相続税の試算を見たら当初の見込みの2倍になってしまった。何かできることはなかったんでしょうか」と。
話を聞きながら、「もう少し早く動いていれば……」と思わずにはいられませんでした。
個人名義の土地を、ずっと後回しにしていた
お父様は長年、建設業を経営されていた社長でした。会社の敷地の隣に、個人名義の土地と駐車場があり、評価額はざっくり5,000万円相当。
もともと会社に貸している形でしたが、「名義変更の話は面倒だから、事業承継のときにまとめて整理すればいい」と、ずっと後回しにしていたそうです。
経営者の方でこういうケース、実はかなり多いです。個人と法人の境界が曖昧なまま何十年も経営を続けていると、気づいたら「どこまでが会社の資産で、どこからが個人の財産か」が整理されていない、という状態になりがちです。
急逝で、二重のダメージが発生した
ところが翌年、社長は急病で他界されました。その結果、何が起きたか。
まず、個人名義の土地・駐車場5,000万円分がそのまま相続財産に組み込まれました。「会社に貸していた」とはいえ、名義は個人のまま。当然、相続税の対象です。
さらに深刻だったのが、事業承継税制の手続きが間に合わなかったことです。事業承継税制の特例措置とは、後継者が株式を相続・贈与で取得した場合に、相続税・贈与税の納付を猶予・免除できる制度です。この特例を使うには、事前に「特例承継計画」を都道府県知事に提出し、税務署への申告も必要になります。急逝では、当然この手続きは間に合いません。
株式の評価額が数億円規模であれば、この特例を使えるかどうかで、税額が数千万円単位で変わることもある。このケースでは、不動産の相続税と株式への満額課税が重なり、当初試算の約2倍の納税額になってしまいました。
「後でやる」が最も危険な選択
事業承継の準備を「あとでやればいい」と思っている社長に、ぜひ知ってほしいことがあります。
相続がいつ発生するかは、誰にも計画できません。だからこそ、「今」動く必要がある。特に、以下の2つは同時進行で進めることが必須です。
- 不動産の整理:個人名義で会社に貸している土地・建物は、承継前に会社への譲渡・名義変更・活用方法の見直しを検討する
- 事業承継税制の手続き:特例承継計画の作成・提出は、経営者が存命のうちに済ませる
どちらか一方だけ進めても、もう一方がネックになります。「株式の承継税制は手続きした。でも不動産の整理がまだ」という状態では、相続発生時に不動産分がそのまま課税されます。逆もしかりで、「不動産は整理した。でも株式の特例手続きはまだ」という状態では、株式に満額課税が発生します。
2027年12月末、特例措置の期限が迫っている
声を大にして言いたいのが、期限の問題です。
事業承継税制の特例措置は、2027年12月31日が適用期限です。この日までに贈与や相続で株式を取得していることが要件の一つになっています。
2026年の今、手を打てば間に合います。でも来年、再来年と先送りにするほど、準備の余裕がなくなり、選択肢が消えていきます。特例承継計画の提出→実際の株式移転→税務申告、と複数のステップが必要なため、「あと1年ある」という感覚では手遅れになることもある。
顧問税理士から「まだ大丈夫」と言われている社長も、「具体的な着手スケジュールを教えてほしい」と、今すぐ確認してみてください。
社長自身がすぐ確認できる3つのこと
難しい判断は税理士に任せるとして、自分でもすぐに確認できることを3つ挙げます。
- 個人名義で会社に貸している不動産はないか:土地・建物・駐車場を一度棚卸ししてみてください
- 特例承継計画を提出済みか:税理士か都道府県庁の窓口に確認してみてください
- 後継者は決まっているか:特例措置は「誰に承継するか」が決まっていないと手続きが進みません
この3点に一つでも「まだ」があるなら、今期中に動き出すことを強くお勧めします。
不動産の整理も、承継税制の手続きも、どちらも時間がかかります。焦ってやると余計なコストが発生することもある。だからこそ「まだ余裕がある」今こそ、税理士と一緒に整理を始めてほしいのです。
冒頭の息子さんのような後悔を、読んでいるあなたにはしてほしくない。そのために書きました。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。