先日、建設業を経営するKさん(58歳)からこんな相談を受けました。
「3年後に息子に会社を譲る予定で、そろそろ本格的に動こうと思っています。個人名義の不動産を贈与するところから始めようかと。問題ないですよね?」
話を聞いて、正直ヒヤリとしました。3年後というタイムラインで今から動こうとしているなら、すでに選択肢がかなり狭まっているからです。
2024年に変わった「贈与の加算期間」
知らない方がとても多いのですが、2024年から生前贈与に関する税制が静かに、しかし大きく変わりました。
改正前は「相続開始前3年以内の贈与は、相続財産に加算される」というルールでした。これが一気に7年に延長されたのです。つまり、亡くなる7年以内に贈与した財産は、たとえ贈与税を払っていたとしても、相続税の計算に組み込まれてしまいます。
税務署がわざわざ教えてくれるルールではありませんから、旧ルールのまま「3年前から動けばいい」と思っている社長が今もたくさんいます。でも、その前提はもう崩れています。
「3年前に始めれば間に合う」は昔の話
Kさんのように、承継を3年後に考えているケースで計算してみましょう。
個人名義の不動産を後継者に贈与して、7年ルールの「外」に出るためには、相続発生の7年以上前に贈与を完了している必要があります。今から贈与を始めても、7年後にようやく加算対象外になる計算です。3年後の承継には、4年分足りません。
贈与したつもりでも、その不動産はまるごと相続財産として計算に入ってくる。評価額によっては、数千万円単位で税額が変わってくる話です。
今からでも打てる手はある
では詰んでいるかというと、そんなことはありません。ただし、どの手も「仕込みに時間がかかる」という共通点があります。
よく使われる手段としては、個人名義の不動産を法人に移転する方法があります。法人が取得する形を組むことで、相続財産から切り離しながら、法人税率の低さも活かせます。また、持株会社(ホールディングス)を使って資産管理会社経由で不動産を持たせる設計は、株式評価を圧縮する効果も期待できます。
年間110万円の非課税枠を使った暦年贈与を組み合わせる方法もあります。即効性はありませんが、10年単位で見ると積み上がる効果は小さくありません。
どれが最適かは、不動産の評価額・後継者の属性・収益状況など個別事情で全然違います。「これが正解」という一律の答えはなく、税理士と一緒に数字を見ながら決める話です。
時間だけが生み出せる節税がある
事業承継の相談に多く関わっていると、あることに繰り返し気づかされます。早く動いた人ほど、選べる選択肢が増えるということです。
7年ルールひとつとっても、10年前から手を打っていれば「贈与してから7年待つ」という選択が成立します。3年前に気づいた場合、そのカードは最初から存在しません。時間は買えないのです。
Kさんには「3年後の承継を前提に、今すぐ棚卸しをしましょう」とお伝えしました。まず確認すべきは、個人名義で持っている不動産の評価額、過去7年以内に行った贈与の記録、そして後継者への移転を何年かけて行うかの3点です。
「少額だから」「子供への仕送りだから」と思っていた贈与も、相続税の計算に影響することがあります。記録が残っているうちに整理しておくことが大切です。
承継を5年以上先に考えているなら、まだ十分な時間があります。逆に3年を切っているなら、一日でも早く動くことが節税の幅を広げます。「そろそろ考えようかな」という段階こそ、税理士に「7年ルールを踏まえた承継設計を相談したい」と声をかける絶好のタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。