先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「息子に会社を継がせようと思っているんだけど、税理士に試算してもらったら相続税が2,000万円を超えるって言われて…」。

その社長の資産の大半は、長年使ってきた工場の土地と、会社の株式です。どちらも値上がりしていて、それ自体はめでたい話なのですが、いざ後継者に渡そうとすると、税金という大きな壁が立ちはだかります。

でも実は、この壁を8割も低くできる制度が存在します。知っているか知らないかで、数千万円の差がつく話です。

土地の評価額を80%カットできる制度がある

事業承継で見落とされがちなのが、土地の評価額です。会社が使っている事業用の土地は「特定事業用宅地」として、小規模宅地等の特例の対象になります。

この特例を使うと、400㎡までの事業用土地の評価額が最大80%減額されます。たとえば評価額1億円の土地なら、相続税の計算上は2,000万円として扱われるわけです。

8,000万円分が、計算上「なかったこと」になる。これがどれほど大きな節税効果を持つか、おわかりいただけると思います。

株式には「事業承継税制の特例措置」を組み合わせる

土地と同様に問題になるのが、会社株式の評価額です。業績が好調な会社ほど株価が高く評価され、後継者が受け取る贈与税・相続税が膨らんでしまいます。

ここで活用したいのが事業承継税制の特例措置です。一定の要件を満たした計画書(「特例承継計画」)を都道府県知事に提出し、認定を受ければ、株式の贈与税・相続税が長期間にわたって猶予されます。

最終的に後継者がその会社を次の世代に渡すまで猶予が続くケースもあり、実質的に課税を大幅に圧縮できる制度です。そして重要なのが期限です。この特例措置を使うには、2027年12月末までに特例承継計画を提出する必要があります。

2つを組み合わせると、負担はどこまで下がるか

先ほどの製造業の社長のケースで考えてみます。工場の土地(評価額1億円)に小規模宅地の特例を適用すると、評価額は2,000万円まで圧縮されます。さらに会社株式(評価額5,000万円)に事業承継税制を組み合わせると、税の支払いが長期猶予されます。

この2つを同時に使った結果、当初2,000万円超と試算されていた相続税・贈与税の実質負担が、数百万円台まで下がる可能性があります。計算上の「8割減」は決して大げさな数字ではありません。

なぜ、やらない社長が多いのか

これほど強力な制度があるのに、活用できていない社長が多いのはなぜでしょう。主な理由は3つあります。

ひとつは「制度を知らない」こと。税理士から積極的に説明されなければ、なかなか耳に入りません。ふたつめは「要件が複雑」で後回しにしがちなこと。そして最も深刻なのが、「まだ早い」と思っていることです。

事業承継は「始めたいと思ったときに始める」ものではありません。後継者と親族が揃って動けるうちに、早めに手を打っておくものです。70代になってから考えようとすると、健康や認知の問題でタイミングを逃すケースが実際に起きています。

期限まで1年半、今から動き始める

特例承継計画の提出期限まで、残り約1年半です。計画書の作成、税理士・弁護士との連携、都道府県への申請と、やることは意外と多くあります。「来年考えよう」では間に合わないケースも出てきます。

まずは自社の株式評価額と、保有している事業用不動産の評価額をざっくりでも把握することから始めてみてください。数字を見れば、動くべきかどうかが自ずとわかります。

事業承継の税対策は、早く動いた人が得をする世界です。2027年の期限を前に、今期中に税理士への相談をスケジュールに入れておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。