先日、製造業を営む68歳の社長とお話しする機会がありました。

「息子に継がせるつもりはあるんですが、まぁ来年でいいかな、と」

そう笑いながら話していた社長が5年後に直面したのは、想定をはるかに超えた承継コストでした。

「来年でいい」が積み重なると起きること

事業承継を先送りにしているあいだにも、自社株の評価額は静かに上がり続けます。

売上が伸びれば純資産は膨らみ、会社が儲かるほど相続時の株価も上がる。経営者としては当然の成果なのに、税務上は「課税される財産が増えている」ということでもあります。

この社長のケースでは、5年の先送りで推定承継税コストが2,000万円を超えるまでに膨らんでいました。毎年200万円ずつ「見えないコスト」がかかり続けていた計算です。

自社株評価を左右する「純資産」のしくみ

中小企業の自社株評価には、主に純資産価額方式と類似業種比準方式が使われます。

オーナー系の中小企業で問題になりやすいのが純資産価額方式です。簡単に言うと、会社が持っている資産の評価額から負債を引いた金額をもとに株価を計算する方法で、業績がいい会社ほど評価が高くなる傾向があります。

ここで有効になるのが、法人名義で収益不動産を購入するという手法です。

不動産は、相続税評価額(路線価や固定資産税評価額ベース)が実際の購入価格より低くなるのが一般的です。1億円で購入した収益マンションが相続税評価では6〜7千万円程度になることは珍しくありません。この評価差が純資産を圧縮し、結果として自社株評価を引き下げる効果を生みます。

実際に何が起きたか

税理士からアドバイスを受けたこの社長は、法人名義で収益マンションを1室購入しました。

その結果、純資産価額方式で計算される自社株評価が大きく下がり、年換算で200万円相当の承継コスト削減につながる試算が出たそうです。

単に株価が下がるだけでなく、毎月の賃料収入という新たなキャッシュフローも生まれました。承継対策と資産運用が同時に進んだ、まさに一石二鳥の判断でした。

ただし、万能ではない点も知っておく

不動産購入による自社株評価の圧縮は強力な手法ですが、注意点もあります。

効果の大きさは会社の財務状況や資産構成によって変わります。すでに負債が多い会社や、不動産比率が高すぎる会社では逆効果になるケースもあります。また、購入直後に相続・承継が発生した場合、税務当局から「節税目的の取得」と認定されるリスクもゼロではありません。

実行前には必ず税理士に個別の試算を依頼し、会社の実態に合った設計を確認してから動くことが大切です。

「まだ来年でいい」と思っているなら

事業承継の問題は、先送りするほどコストが上がります。対策できる時間は業績が好調なうちにしかありません。

特に60代の経営者であれば、今すぐ動かなくていいとしても、「今期中に自社株評価の試算だけ税理士に頼んでみる」くらいのアクションが、数年後に大きな差をつけることになります。まず現状を把握するところから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。