先日、ある製造業の社長からこんな連絡が来ました。「3年前に買った事務所ビル、今さら税務署から呼ばれたんだけど…」。話を聞いてみると、取得時の土地建物比率の設定が問題視されているとのこと。「5年は経っていないから大丈夫」と思っていたそうですが、実はそこに大きな落とし穴がありました。
通常は5年、でも「この一言」で7年に延びる
税務調査で過去をさかのぼれる期間は、原則として5年です。多くの税理士・経営者がこの数字を頭に入れています。ただし、税務署が「仮装または隠蔽」と判断した場合は、一気に7年まで延長されます。
仮装・隠蔽とは、わかりやすく言うと「意図的に税負担を減らそうとした行為」です。うっかりミスや認識不足とは違い、「知っていてやった」と認定されるラインです。そしてこの認定が、法人不動産の取引で驚くほど頻繁に発生しています。
最もよくある引き金① 土地建物の比率操作
不動産を取得するとき、購入代金を「土地」と「建物」に按分する作業が必要です。土地は減価償却できませんが、建物は耐用年数にわたって費用計上できます。つまり、建物割合を高くすれば、毎年の減価償却費が増えて節税になる、というわけです。
ここで問題が起きます。合理的な根拠なく建物割合を水増しすると、税務調査官の目には「意図的な操作=仮装行為」に映ります。固定資産税評価額や不動産鑑定士の評価を無視して、節税目的で比率を決めたと判断されれば、7年前の取引まで掘り返されます。
重加算税は通常の過少申告加算税(10〜15%)とは別次元で、35%が課されます。追徴本税が500万円あれば、それだけで175万円の上乗せです。7年分の税額と重加算税が重なると、追徴額が数千万円規模になった事例も珍しくありません。
もう一つの引き金② 役員への低額売却
「会社が持っているビルを、社長個人に格安で売る」という取引も要注意です。時価の50%未満での売却は、税務上「低額譲渡」として特別なルールが適用されます。
具体的には、時価との差額が役員給与とみなされ、その分に対して法人税・源泉所得税が課税されます。問題は、この「みなし給与」の認定が、7年前の取引にまで遡及されることです。
たとえば、6年前に時価2億円の物件を8,000万円で社長個人に売っていたとします。差額1.2億円が役員給与として認定され、法人税の損金算入が否認される。さらに源泉所得税の徴収漏れとして追徴される。こうした二重・三重の課税が一度に来るのが、低額売却の恐ろしさです。
「知らなかった」が通用しない理由
税務調査で7年遡及が適用されるケースの共通点は、「節税の意図が書類や行動から読み取れる」点です。たとえば、取得時に複数のシミュレーションを作って建物比率を検討した記録が残っていれば、「意図的に選んだ」証拠になり得ます。
不動産取引は金額が大きいため、1回の判断ミスが経営に深刻なダメージを与えます。5年どころか7年先まで影響が続くと思えば、取得・売却のタイミングで税務上の根拠をしっかり固めておくことがいかに重要か、わかっていただけると思います。
今すぐ確認しておきたいこと
法人で不動産を持っている、あるいは近い将来に取得・売却を検討しているなら、以下の点を一度税理士と確認しておくことをおすすめします。
- 過去の土地建物按分に合理的な根拠(不動産鑑定評価書、固定資産税評価額など)が残っているか
- 役員や関係者との不動産取引がある場合、時価の算定根拠が明確か
- 減価償却の計算が適正な耐用年数・方法で行われているか
不動産はそれ自体が大きな資産であると同時に、税務リスクの震源地にもなり得ます。「もう何年も前の話だから」と安心せず、7年という時計が動いていることを念頭に置いておきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。