先日、不動産賃貸を本業にしている50代の社長からこんな相談を受けました。

「5年前から法人化を考えていたんですが、面倒くさくてそのままにしてしまいました。これって、やっぱりまずかったですか?」

正直に計算してお伝えしたところ、社長は少し顔色を変えていました。それもそのはず。その5年間で失った節税チャンスは、軽く1,000万円を超えていたからです。

個人と法人、税率の差は「20ポイント超」

不動産収益を個人で受け取ると、所得税と住民税を合わせた最大税率は55%になります。年間1,000万円の収益があれば、そのうち500万円以上が税金として消えていくイメージです。

一方、法人の実効税率は最大でも約34%程度。同じ1,000万円の収益でも、法人ならおよそ340万円の税負担に抑えられます。

その差は年間で約160〜210万円。これが毎年積み重なっていくわけです。

3年放置すると600万円、10年では2,000万円超

「年間200万円くらいの差でしょ」と思われるかもしれません。でも、これが時間軸で見ると話が変わります。

3年間で試算すると、累積の節税ロスは600万円以上に達します。10年スパンで考えると、2,000万円を超えることも珍しくありません。

法人化は、始めた瞬間から毎年節税が積み上がっていく仕組みです。逆に言えば、先送りするたびに「取り返せないコスト」が静かに増え続けているということでもあります。

「じゃあ急いで法人に移せばいい」は危ない

ここで注意していただきたいのが、手順の問題です。

「節税になるなら早く不動産を法人に移してしまおう」と焦るのは理解できますが、個人から法人への不動産移転には適正な対価が必要です。市場価格を大きく下回る価格で移転すると、差額が「贈与」とみなされて贈与税が課される可能性があります。

また、移転時に個人側で譲渡所得税が発生するケースもあります。「節税のために法人化したのに、移転コストで損をした」という本末転倒な結果になることもゼロではありません。

焦って動くのではなく、きちんと試算した上で動くことが大切です。

法人化の「旬」はいつか

一般的に、不動産収益が年間500万円を超えてくると、法人化の効果が出やすくなります。それ以下の規模でも、将来的に収益を伸ばしていくつもりがあるなら、早めに法人の器を作っておくほうが有利です。

法人を作ること自体のコストは、設立費用として20〜30万円程度。毎年の節税額と比べれば、数ヶ月で回収できる投資です。

それでも多くの方が先送りしてしまうのは、「何から始めればいいかわからない」という不安があるからではないでしょうか。

まず「自分の数字」を把握することから始める

法人化を検討するなら、最初のステップは現状の税負担の試算です。自分が今いくら税金を払っていて、法人化によってどれだけ変わるのかを数字で見ることで、判断がぐっとしやすくなります。

その試算は税理士に依頼すれば、初回相談で大まかな見通しを出してもらえます。「まだ決めていないけど話だけ聞きたい」というスタンスで相談しに行って構いません。

法人化のタイミングは「来期でも」と思いがちですが、1年先送りすれば、その1年分の節税チャンスは永遠に戻ってきません。不動産収益が安定してきた今が、動き出すのにちょうどいい時期かもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。