先日、60代の地主オーナーからこんな相談を受けました。「子どもに不動産を引き継がせたいんですが、税理士に試算してもらったら頭が真っ白になって」と言うんです。

時価3億円の収益マンションを1棟お持ちで、試算した相続税はおよそ9,000万円。「財産の3分の1が税金に消えるんですか」と絶句されていました。でも、このタイミングでご相談いただいたことで、まだ間に合う選択肢がありました。「法人化」です。

個人保有だと、不動産は時価に近い金額で評価される

個人で不動産を保有していると、相続が発生したとき「相続税評価額」で課税されます。土地は路線価方式(時価のおよそ80%)、建物は固定資産税評価額(時価のおよそ60〜70%)で評価されます。

時価よりは割り引かれますが、収益物件には「収益還元法」も絡んでくるケースがあり、思ったほど評価が下がらないことも少なくありません。そして法定相続人が少なければ少ないほど、1人あたりの税率は跳ね上がります。

3億円の財産を子ども1人で引き継ぐ場合、最高税率55%が適用される部分も出てくる。「親が一生かけて残した資産が、相続税で1億円消える」という話は、決して他人事ではないんです。

法人にすると、評価されるのは「株式」になる

ここが法人活用の核心です。不動産を法人名義で保有していると、相続の対象は「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」になります。

株式の評価方法は、純資産価額方式か類似業種比準価額方式(またはその折衷)で計算されます。純資産価額方式でも、法人税等相当額(約37%)が控除されるため、不動産を直接評価するより資産評価が下がります。類似業種比準価額方式を使えるケースでは、さらに大きく圧縮されることがあります。

同じ3億円の不動産でも、法人を経由することで相続税評価額が1〜2億円台に下がるケースも珍しくありません。これが「法人化で1億円変わる」と言われる理由です。

役員報酬で所得を分散する効果も見逃せない

法人化には、相続評価の圧縮だけでなく、生前の所得分散という効果もあります。

配偶者や子どもを役員に就任させ、役員報酬を支払えば、個人に集中していた家賃収入を複数人に分けることができます。個人の所得税は累進課税で最高45%(住民税含めると55%)ですが、法人税の実効税率はおよそ34%。この差を活かすだけで、毎年の手取りが変わってきます。

賃料収入を役員報酬として毎期出し切っていけば、法人内に純資産が蓄積されにくくなる。相続時の株式評価を低く抑えるためにも、この設計は非常に重要な要素です。

タイミングが命。相続の直前では遅い

法人化の節税効果は、相続が発生してからでは手遅れです。これだけは強調しておきたい点です。

法人設立から3年以内に相続が発生した場合、株式評価の圧縮効果が制限されるルールがあります。また税務上、「租税回避目的の法人化」と判断されるリスクもゼロではありません。

「親の体調が心配になってきた」というタイミングで相談に来られる方も多いのですが、それでは選択肢が狭まっているケースもあります。元気なうちに、できれば10年以上の時間軸で設計に着手するのが理想です。


不動産を個人で持ち続けることが当たり前になっている方ほど、相続税の試算を見て驚かれます。まだ法人化を検討したことがないなら、まずは現状の相続税評価額を税理士に試算してもらうことからはじめてみてください。「備えが早いほど、選択肢が増える」——これが不動産相続の鉄則です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。