先日、こんな相談を受けました。「親が賃貸マンションをいくつか持っているんですが、試算してみたら相続税が3,000万円近くなりそうで……どうにかなりませんか」と。

そのオーナー経営者、まだ50代で相続は先の話と思っていたそうです。でも不動産は個人名義のまま。法人化は一切検討していなかった。「それ、対策の余地がたくさんありますよ」と伝えると、表情がガラッと変わりました。

個人名義のまま相続すると何が起きるか

個人名義の不動産をそのまま相続すると、路線価で評価した金額が丸ごと相続財産に加算されます。路線価は時価の80%程度が目安とされていますが、都市部の収益物件ではそれでも評価額は相当な数字になります。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。相続人が配偶者と子ども2人の3人であれば4,800万円です。賃貸マンション1棟でこの枠をあっさり超えることは、都市部では珍しくありません。

法人化すると、評価の「ものさし」がまるで変わる

不動産を資産管理法人に移転すると、相続財産として評価されるのは「不動産そのもの」ではなく、「その法人の株式」になります。

非上場株式の評価には「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」が使われますが、いずれも不動産を直接評価する場合と比べて、評価額が圧縮されやすい構造になっています。実際に最大40%の削減効果が出た事例も報告されており、物件の種類や法人の規模・構成によっては、それ以上になることもあります。

同じ不動産なのに、「誰が持つか」だけで相続税評価が大きく変わる。これが法人化による相続税対策の核心です。

役員退職金で、さらに評価を下げる

法人化のメリットはもう一つあります。役員退職金の活用です。

法人が役員に退職金を支払うと、その分は法人の経費になります。結果として法人の純資産が減り、株式の評価額もさらに下がります。退職金を受け取る役員側にとっても、退職所得控除が使えるため税負担が軽くなります。

不動産の収益を法人内に蓄積しながら、退職金という形で計画的に引き出す設計をしておけば、相続時の評価額を継続的に圧縮していくことができます。現役オーナーが10〜20年かけて行う「長期設計」として非常に有効な手法です。

動く前に必ず確認したいコスト

ただし、「法人化すればいい」と短絡的に動くのは危険です。

法人設立には登記費用として20〜30万円程度かかります。その後も毎年、法人住民税(赤字でも最低7万円)、社会保険料、税理士報酬などのランニングコストが発生します。物件が少ない・収益が小さい段階では、節税効果よりコストが上回るケースも十分あります。

さらに不動産を個人から法人に移転する際には、不動産取得税・登録免許税・場合によっては譲渡所得税も発生します。「相続税を減らすつもりが、移転コストで帳消しになった」という笑えない話も実在します。

対策は「早さ」がすべて

相続税対策において、最も大切なのはタイミングです。相続が発生してからでは手遅れで、生前にどれだけ時間をかけて設計するかで効果が決まります。

特に注意したいのが、法人設立後の株式評価の仕組みです。純資産価額方式で評価される場合、設立後3年以内は評価が下がりにくい制度になっています。早く動けば動くほど、その3年を早く「消化」できるわけです。

親御さんがまだ元気なうちに、あるいは自分が現役の今のうちに、法人化の設計を税理士と一緒に始めることが最大の相続税対策につながります。「うちにはまだ早い」と感じているその感覚こそが、一番のリスクかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。