先日、都内でビルを3棟保有する社長から、こんな相談を受けました。
「土地と建物を合わせると時価で8億くらいあるんですが、このまま死んだらいくら取られるんですかね」
試算してみると、相続税だけで2億円を超える可能性がありました。社長は少し黙ってから、「子どもに渡す前に半分消えるわけか」とつぶやいていました。
今回は、そんな「不動産を持つ社長の相続問題」に対して、法人を使った対策の考え方をお伝えします。
個人保有のままだと、相続税は「実勢価格」で計算される
不動産を個人名義で持ち続けているケースは非常に多いです。でも、相続が発生したとき、その不動産は基本的に「相続税評価額」という基準で課税されます。
土地は路線価方式、建物は固定資産税評価額が使われるので、実勢価格より低くなることが多い。それは事実です。ただ、問題なのは資産規模が大きくなるほど、最終的な税率が跳ね上がる点です。
相続税の最高税率は55%。課税遺産総額が6億円を超えると、この税率がかかってきます。不動産を複数保有している社長は、あっという間にこの水準に到達します。
法人を挟むと、何が変わるのか
対策の一つとして有効なのが、不動産を「資産管理法人」に移し、その法人の株式を相続させる方法です。
仕組みはこうです。まず不動産を法人名義に移します。すると相続財産は「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」に変わります。この株式の評価は、不動産の時価とは異なる計算方法になるため、課税ベースが実勢価格より低くなるケースが生まれます。
具体的には、法人の純資産価額方式で評価されるとき、法人税等相当額(約37%)を控除できる仕組みがあります。これにより、相続税の課税ベースを30%以上圧縮できることがあります。
先ほどの8億円の不動産で考えると、うまく設計できれば課税ベースが5〜6億円規模まで下がる可能性がある。税率が高い水準に踏み込む金額が変わるだけで、相続税の総額はかなり変わります。
ただし「移転コスト」と「設計の巧拙」で効果は大きく変わる
この手法には注意点もあります。個人から法人へ不動産を移すときには、不動産取得税や登録免許税がかかります。また、法人を維持するための会計費用や税務申告コストも毎年発生します。
「節税できると聞いて法人を作ったけど、諸費用を引いたらほとんど効果がなかった」というケースも珍しくありません。
効果を最大化するためのポイントは、主に3つです。
- 移転する不動産の選定:すべての不動産を法人に移す必要はない。評価額と実勢価格の乖離が大きいものを選ぶと効果的
- タイミング:不動産価格が高騰している局面での移転は、法人側の含み益が大きくなりすぎることがある
- 株式の分散設計:法人の株式を子どもや後継者に少しずつ贈与しておくと、相続時の負担をさらに減らせる
この3点を組み合わせることで、単純に法人を作るだけよりも大きな効果が得られます。
「うちは関係ない」と思っていた社長ほど、要注意
「まだ相続は先の話」と思っている社長も多いですが、不動産の法人化は準備に時間がかかります。設立から移転登記、税務申告の整備まで、最低でも半年から1年はかかります。
さらに、相続直前に慌てて動いても「租税回避」と判断されるリスクがあります。税務当局から否認されないためにも、早い段階から計画的に動くことが大切です。
不動産を個人で複数持っている社長は、一度「自分の財産が今の状態で相続されたらどうなるか」をシミュレーションしてみることをおすすめします。その数字を見てから対策を考えると、危機感と具体策が同時に見えてきます。
法人化はあくまで手段の一つですが、資産規模が大きいほど検討する価値は高い選択肢です。まだ手を付けていないなら、今期中に税理士に相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。