先日、60代の不動産オーナー社長からこんな相談を受けました。「そろそろアパートを息子に渡したいんだが、贈与と相続、どっちが得なんだろうか」と。
一見シンプルな質問に見えますが、これが実は相当奥が深い。渡し方を間違えると、数千万円単位で損をする可能性があります。今日はそのポイントを、できるだけわかりやすくお伝えします。
相続なら評価が下がる、でも贈与税が怖い
まず前提として、不動産の評価額は現金とは異なります。相続で引き継ぐ場合、土地の評価は「路線価」をベースに計算されるため、実際の時価よりおよそ2割低くなるのが一般的です。
つまり、時価1億円の土地でも、相続財産としては8000万円程度に圧縮されます。これだけで相続税の対象額がぐっと減る。現金を持ち続けるよりも、不動産に換えておくほうが相続対策になると言われる理由がここにあります。
ところが、「生前贈与」となると話が変わります。評価の方法は同じ路線価ベースでも、そこに贈与税がかかってくるからです。贈与税の税率は最大55%。仮に8000万円の評価の土地を単純に贈与しようとすると、税金だけで数千万円に膨らむことがあります。
「じゃあ相続一択じゃないか」と思いたくなるところですが、話はここで終わりません。
収益物件こそ「相続時精算課税制度」が効く
注目してほしいのが「相続時精算課税制度」という仕組みです。これは60歳以上の親から子・孫への贈与について、累計2500万円まで贈与税がかからない制度です。2500万円を超えた部分は一律20%の税率になります。
ただし、この制度の本当のうまみは、税率の話だけではありません。
収益物件、つまり家賃収入が入ってくるアパートやマンションを早めに子どもへ移してしまうと、毎月の家賃収入も子どもに入るようになります。親のもとに現金が積み上がらないということは、その分だけ相続財産が増えないということです。
仮に年間300万円の家賃収入がある物件を、相続ではなく生前贈与で渡したとします。10年間で300万円×10年=3000万円が、親の財産に加算されずに済む計算になります。相続税率が30〜40%の方であれば、それだけで900万〜1200万円の節税効果になり得ます。
これが冒頭で「3000万円の差」と言われる理由です。
ただし、物件の中身と家族構成で判断は変わる
「じゃあ収益物件は全部さっさと贈与すればいいんだ」——そう飛びつくのは少し待ってください。
相続時精算課税制度を使うと、その物件は将来の相続時に「相続財産に持ち戻される」という前提があります。贈与時の評価額で計算されるため、贈与後に物件の評価が下がっていれば有利ですが、逆に評価が上がっていればその恩恵を受けにくくなります。
また、築年数が古い物件は評価が低い一方で、修繕費や空室リスクも高まります。贈与した後に大きな修繕が必要になれば、子どもの手元資金を圧迫しかねません。
さらに家族構成によっても話は変わります。子どもが複数いる場合、特定の子に物件を渡すことが他の相続人との関係に影響することもあります。「節税できた」と思っていたら、後で遺産争いの火種になった——という事例は、残念ながらよくある話です。
整理すると、有利になりやすいケースと注意が必要なケースはこのようになります。
- 有利になりやすい:収益性が高い物件・親の財産規模が大きい・贈与後の評価下落が見込める・子どもが一人
- 注意が必要:築古で修繕リスクが高い・子どもが複数いる・物件の評価上昇が見込まれる
「とりあえず相続で」が一番もったいない
多くの社長が、忙しさや面倒さから「不動産は相続でいいや」と先延ばしにしています。しかし、毎年積み上がっていく家賃収入は、何もしなければそのまま相続財産になり続けます。
決断を1年先延ばしにするだけで、300万円分の節税機会を逃すかもしれません。10年で3000万円、そこにかかる税率を掛ければ、相当な金額になります。
「今の物件で生前贈与が得なのか、相続が得なのか」——この答えは、物件の種類・評価額・収益力・家族構成・親の総資産額によって変わります。だからこそ、自分の状況に合った判断を、専門家と一緒に考えることが大切です。
もし収益物件をお持ちで、まだ何も対策を打っていないなら、今年中に一度シミュレーションをしておくことをおすすめします。「どうせ相続で渡せばいい」と思っているうちに、静かに損をしているケースが本当に多いので。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。