「相続対策って、まだ早いと思ってまして」

先日、ある製造業の社長(57歳)にそう言われました。会社の業績は好調で、個人資産も2億円を超えている。でも相続の話になると「引退が見えてから考える」と。

その一言が、少し気になりました。

何もしないとどうなるか

現金・預金を2億円持ったまま相続が発生した場合、相続税はおよそ4,800万円になります(法定相続人が子ども1人のケース)。

これは「財産があるから払えばいい」の話ではありません。後継者は事業承継のタイミングで、その4,800万円を事業資金とは別に用意しなければならないのです。

設備を更新したい。運転資金を厚くしたい。そんな局面で、まとまった相続税を納める必要が出てくる。「親が財産を残してくれたはずなのに、手元が苦しい」という状況は、決して珍しくありません。

不動産に組み換えると何が変わるか

相続税の計算で大きく効いてくるのが「財産の評価額」です。

現金1億円はそのまま1億円として評価されます。ところが、賃貸不動産に組み換えると話が変わります。賃貸物件の土地は「貸家建付地」として評価が下がり、建物も固定資産税評価額をベースに借家権割合分が控除されます。さらに「小規模宅地の特例」が適用できれば、評価額はさらに大きく圧縮されます。

実務では、現金をそのまま保有するより評価額が40〜50%下がるケースが多くあります。

仮に2億円の現金を賃貸不動産に組み換えて、評価額が1億2,000万円になったとしましょう。差額は8,000万円。相続税率が25%前後の水準なら、税負担の差は2,000万円を超えます。

「知っている社長」の後継者はその2,000万円を手元に残し、事業に回せる。「知らなかった社長」の後継者は、黙って税務署に収めるだけです。

対策するなら早いほど有利

相続対策に「早すぎる」はありません。

不動産を購入してから賃貸経営を安定させるには一定の時間がかかりますし、小規模宅地の特例など各種の評価減を活用するには、継続的な賃貸実態が必要です。亡くなる直前に慌てて動いても、「節税目的の駆け込み購入」として税務調査で指摘されるリスクもあります。

早く動くほど、税務上の安全性も高まるのです。

一点だけ、注意してほしいこと

不動産節税の効果は、物件の種類・立地・法定相続人の数・既存の資産構成によって大きく変わります。「不動産を買えばいい」ではなく、あくまで全体の資産設計の中に位置づけることが重要です。

空室リスクや維持管理コストも当然かかります。節税効果だけを見て購入判断をしてしまい、肝心のキャッシュフローが回らなくなった、という失敗例も実際にあります。節税と収益性は、セットで考える必要があります。

今できる最初の一歩

最初のステップは、難しくありません。今の個人資産を大まかに把握して、税理士に「相続税の試算をしてほしい」と依頼するだけです。

試算してみて初めて、「うちは対策が必要か」「どの程度の優先度か」が見えてきます。動くかどうかはそれからでも遅くはありません。

「まだ早い」と思っている社長ほど、実は時間があるうちに動ける立場にいます。今期中に一度、相続税の試算を税理士に依頼してみてください。それが2,000万円を守る第一歩になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。