先日、製造業を営む社長と話していて、こんな言葉が出てきました。

「借金を返しているのに、なぜか毎年キャッシュが増えているんです。最初は経理担当者に聞いても、自分でもよくわからないって言われて…」

その社長、実は意図せず「減価償却とキャッシュフローの黄金バランス」を手に入れていたんです。今日はその仕組みを、できるだけ平易な言葉でお伝えします。

減価償却費は「お金が出ない経費」である

減価償却という言葉、聞いたことはあっても「なんとなく難しそう」と敬遠している社長は少なくありません。でも、ここだけ押さえてください。

減価償却費とは、建物や機械などの固定資産を買ったときの費用を、数年にわたって少しずつ経費として計上する仕組みです。そして最大のポイントは、帳簿上は経費になるけれど、実際には1円もお金が出ていかないという点です。

つまり、利益を圧縮して税金を減らしながら、キャッシュは手元に残る。これが減価償却の本質的な面白さです。

年商3億の社長に起きたこと

年商3億円の製造業を経営する田中社長(仮名)のケースをご紹介しましょう。

田中社長は数年前、法人名義で1億円の中古ビルを購入しました。中古物件は耐用年数が短いため、減価償却を速いペースで進められます。その結果、毎年500万円の減価償却費を経費として計上できるようになりました。

法人税率をおおよそ30%として計算すると、500万円の経費増加によって年間約150万円の税負担が軽くなります。10年で1,500万円。これは決して小さな数字ではありません。

さらに重要なのが、借入返済との関係です。

「返済額<減価償却費」のとき、何が起きるか

ビルの購入資金1億円は、金融機関からの融資です。毎年の返済額は元本ベースで約400万円。これは毎月の銀行振込として、確かにお金が出ていきます。

ここで比較してみましょう。

  • 毎年の返済額(実際に出ていくお金):400万円
  • 毎年の減価償却費(帳簿上の経費):500万円

返済額よりも減価償却費のほうが100万円多い。この差額こそが、手元に残るキャッシュの源泉です。

返済はお金が出ていくけれど、経費にはなりません(元本返済は経費ではなく資産の減少です)。一方、減価償却費は経費になるけれど、お金は出ていかない。この「ねじれ」を意図的に設計すると、借金を返しながらも手元資金が積み上がっていく構造が生まれるのです。

田中社長の場合、この仕組みによって節税効果150万円と、キャッシュフローの実質プラス100万円が重なり、年間ベースで手元に残るお金が大幅に改善されました。

この設計で注意すべき3つのこと

魅力的な話ですが、飛びつく前に確認しておきたい点があります。

①物件選びで効果が大きく変わる

中古物件は新築より耐用年数が短く、減価償却のスピードが速まります。同じ1億円でも、築年数や構造によって年間の減価償却費は大きく異なります。購入前に必ず税理士と試算を行ってください。

②出口(売却時)の税負担も考える

減価償却を進めると、建物の帳簿価額が下がります。将来売却したとき、売却益が大きくなる可能性があり、そのときに法人税がかかります。節税と将来の課税をセットで考えることが重要です。

③資金繰り全体との整合性

購入資金の調達やその後の返済が、本業のキャッシュフローに無理をかけないかどうかを慎重に見ておく必要があります。減価償却の効果だけに目を向けて、資金繰りが苦しくなっては本末転倒です。

知っているかどうかで、10年後が変わる

税の世界では「知らないと損をする」ことが本当に多くあります。減価償却とキャッシュフローの関係もそのひとつ。多くの社長が、「借金しながら節税なんて難しそう」と思い込んで、検討すらしていません。

でも実際には、正しく設計すれば借入返済中でも手元資金を厚くできるシナリオが存在します。田中社長のケースはその好例です。

不動産の購入を検討しているなら、あるいは手元キャッシュが思うように積み上がらないと感じているなら、一度「減価償却を使ったキャッシュフロー設計」というテーマで税理士に相談してみてください。数字を並べてシミュレーションするだけで、思っている以上に具体的な絵が描けるはずです。

知っているかどうかで、10年後の会社のキャッシュポジションは大きく変わります。ぜひ今期中に一度、顧問税理士との対話のきっかけにしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。