先日、都内でビルを2棟持つオーナー社長からこんな相談を受けました。「うちのビル、2室ほど空いてるんですが、相続税に関係しますか?」——この一言に、実はとても深い問題が隠れています。

空室があるだけで、相続税の評価額が大きく跳ね上がる可能性があるんです。今日はそのメカニズムと、知っておくべき対策をお話しします。

「賃貸割合」が評価額を直撃する理由

不動産の相続税評価は、単純に「土地・建物の価値がいくらか」だけでは決まりません。そのビルが実際に賃貸に使われているかどうか、つまり賃貸割合によって、評価額が大きく変わってくるんです。

賃貸割合とは、簡単に言えば「全室のうち何割が入居者のいる状態か」を示す数字です。この割合が高いほど、相続税の評価額を下げる「借家権割合」という仕組みが最大限に機能します。

借家権割合は全国一律30%。満室の状態であれば、建物評価額からまるごとこの30%分が減額される計算になります。

1億円のビルが4,000万円圧縮されるケース

少し具体的に考えてみましょう。評価額1億円の賃貸ビルがあるとします。

土地については「貸家建付地」として評価減が適用され、建物については借家権割合30%が減額されます。これらを組み合わせると、条件次第で最大約4,000万円の圧縮が可能になるケースがあるんです。

これが満室の場合の話。では空室があるとどうなるか。

10室のうち2室が空いているとすると、賃貸割合は80%になります。借家権割合の恩恵も80%分しか受けられず、残り20%は「賃貸に使っていない部分」として評価されます。たった2室の空きが、数百万円単位で評価額を押し上げることもあるんです。

「一時的な入居」には落とし穴がある

ここで焦って「じゃあ相続が起きる直前に入居者を入れればいい」と考える方もいます。しかし、この発想には大きなリスクがあります。

税務署は、賃貸の「継続性」と「実態」を重視します。相続直前に突然入居者が現れ、相続後すぐに退去するような状況は、賃貸の実態なしと判断され、評価減を否認されるケースがあるんです。

過去の税務調査でも、「賃貸借契約はあるが実態が伴っていない」として、減額が認められなかった事例が複数あります。書類だけ整えても意味がなく、実際の入退去や賃料の受け渡しが継続的に行われていることが求められます。

相続対策は「今の賃貸経営」から始まる

では、正しい対策とは何か。答えはシンプルです。相続が発生する前から、継続的な賃貸実態を作り続けることです。

具体的には、以下のような取り組みが有効です。

  • 空室期間をできるだけ短くするための入居者募集強化
  • 賃料設定の見直しによる競争力の回復
  • 管理会社との連携で稼働率を高める運営体制の整備

とはいえ、これらはあくまで「継続的な賃貸経営の一環」として行うことが大前提。節税目的だけの一時的な対応は、むしろリスクを高めます。

オーナー社長が今すぐ確認すべきこと

賃貸物件を持っている社長に、ぜひ今日確認してほしいことがあります。それは現時点の賃貸割合が何%かという数字です。

もし80%を下回っているなら、相続税の試算をしてみる価値があります。満室時と空室時の評価額の差を比べるだけで、空室対策に投じるコストと節税効果のバランスが見えてきます。

不動産の相続対策は、株や保険と違って「すぐに動ける」ものではありません。入居者を確保するにも数ヶ月かかりますし、継続的な賃貸実態を作るには年単位の時間が必要です。だからこそ、元気なうちに、早めに手を打つことが重要なんです。

賃貸ビルやマンションを持っているなら、一度、担当の税理士や不動産の専門家に「賃貸割合と相続税評価の関係」を相談してみてください。空室を放置したまま、気づかないうちに相続税を払いすぎている——そんな状況だけは避けてほしいと思います。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。