先日、資産総額が10億円を超える製造業の社長から、こんな相談を受けました。「顧問税理士に相続税の試算を出してもらったら、5億円を超えていた。正直、会社を売らないと払えない」。

驚くほど多い話です。資産が増えれば増えるほど、相続税の問題は避けて通れません。ところが、法人で不動産を保有しているかどうかで、この数字が劇的に変わることがあります。

今回は、富裕層の間で活用されている「法人不動産×相続税評価額の圧縮」という手法をご紹介します。知っているかどうかで、数億円単位の差が生まれる話です。

個人で持つより法人で持つほうが、なぜ有利なのか

不動産を個人で相続するとき、評価の基準は「路線価」になります。路線価は時価の約80%水準が目安です。時価10億円の物件なら、おおよそ8億円の評価になる計算です。

ところが、法人が不動産を保有している場合、相続の対象は「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」になります。この株式評価の計算過程で、評価額をさらに下げる仕組みが複数重なります。これが、法人活用の最大の妙味です。

三重の圧縮が働く仕組み

法人不動産の評価は、大きく3段階で圧縮されます。

第一の圧縮:路線価評価。個人と同様に、不動産は路線価で評価されます。時価10億円の物件がおよそ8億円になるイメージです。ここまでは個人保有と大差ありません。

第二の圧縮:貸家評価。賃貸用不動産は、借家権割合(通常30%)と賃貸割合を掛けて評価が下がります。満室経営であれば、8億円がさらに5〜6億円規模まで下がることも珍しくありません。

第三の圧縮:法人税等相当額の控除。これが個人保有との最大の違いです。含み益がある不動産を法人が持っている場合、株式評価の計算で含み益から法人税等相当額(約37%)を差し引くことができます。物件の含み益が大きいほど、この控除が効いてきます。

三段階の圧縮を組み合わせると、時価10億円の物件が評価額3億円前後まで下がるケースも実際に存在します。相続税の課税対象が7億円以上減る、ということです。税率によっては、相続税額が数億円単位で変わります。

借入金を組み合わせると、さらに有利になる

法人で不動産を購入する際に借入金を使うと、評価圧縮の効果がさらに高まる場合があります。

借入金は法人の純資産を減少させるため、株式評価額を下げる方向に働きます。自己資金で全額購入するより、適切なレバレッジをかけたほうが節税効果が高くなるケースが多いです。

ただし、借入金が多すぎると法人の財務健全性に影響します。金融機関との関係や将来のキャッシュフローを慎重に見ながら設計することが前提で、「借りれば借りるほど良い」という単純な話ではありません。

やってはいけない落とし穴

この手法には「節税目的だけで不動産を買う」という落とし穴があります。

税務当局は、実態を伴わない節税スキームに対して厳しい目を向けています。賃料収入がきちんと発生しているか、事業としての実態があるか、という観点で精査されます。2024年以降、国税当局はタワーマンションを使った評価圧縮スキームの適正化を進めており、法人不動産活用においても「事業の実態があること」が大前提です。

形だけ整えた節税は、後から否認されるリスクがあります。長期的に賃貸経営として機能することを前提に設計することが、この手法の鉄則です。

この手法が向いている社長の条件

法人不動産による評価圧縮が効果的なのは、以下のような状況です。

  • 自社株の評価額がすでに高く、相続税の負担が重い
  • 将来的に不動産賃貸業を法人の柱の一つとして育てたい
  • 10年以上の長期視点で資産設計ができる

逆に、短期的な出口を求めている場合や、手間なく節税したいというニーズには向いていません。時間と手間をかけて丁寧に設計する必要がある手法です。

今すぐ確認しておきたいこと

まず自社の株式評価額を試算してみましょう。「純資産価額方式」で評価した場合の概算値を把握するだけで、対策の必要性がはっきり見えてきます。

そのうえで、法人不動産を活用する余地があるかどうか、専門家に相談するのが第一歩です。この種の対策は、相続が発生してからでは間に合いません。少なくとも10年単位で仕込む必要があります。資産が大きくなればなるほど、早めに動くほど選択肢が広がります。心当たりのある方は、今期中に一度、相続税の試算だけでも依頼してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。