先日、資産3億円を持つ60代の製造業オーナーからこんな相談を受けました。
「借金があると相続のとき子供に迷惑がかかる気がして、早めに返してしまいたい」
気持ちはよくわかります。でも実は、これは逆効果になることが多いんです。借入金があるほど相続税を減らせる仕組みが日本の税制にはあります。今日は、その仕組みを3段階に分けて説明します。
第3位:借入金は相続財産から丸ごと引ける
相続税の計算では、プラスの財産(現金・不動産・株など)からマイナスの財産(借入金)を差し引いた「正味の遺産」に課税されます。
たとえば現金1億円と銀行借入1億円が両方ある場合、相続財産としてカウントされるのは実質ゼロ。同じ1億円を現金のまま持ち続けていたら丸ごと課税対象ですが、借入と組み合わせることで節税効果が生まれます。
「それって結局トントンじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。そこで次の話が出てきます。
第2位:現金を不動産に換えると評価が下がる
現金1億円を不動産(土地+建物)に換えると、相続税の評価額は時価の70〜80%程度になります。評価額が7,000〜8,000万円になるので、それだけで2,000〜3,000万円の「評価の圧縮」が起きます。
ここが重要なポイントです。先ほど「現金と借入がトントン」という話をしましたが、現金の代わりに不動産があれば、借入1億円は丸ごと控除される一方、不動産の評価は7,000〜8,000万円に抑えられます。つまり差し引きでマイナスになるわけです。
融資を受けて不動産を買う、という行動ひとつで、相続財産が帳簿上どんどん小さくなっていきます。
第1位:賃貸物件にするとさらに圧縮できる
最後の一手が、その不動産を「賃貸に出す」こと。賃借人がいる土地や建物は、自用(自分が使っている)物件より評価が下がります。
土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として評価され、それぞれ20〜30%ほど追加で差し引かれます。1億円で買った賃貸マンションの評価額が、最終的に5,500万円程度になるケースも珍しくありません。
整理すると、こういう構図です。
- 現金1億円をそのまま持つ → 相続財産:1億円
- 借入1億円で不動産購入(自己使用) → 不動産評価7,500万円 − 借入1億円 = マイナス2,500万円
- 借入1億円で賃貸物件購入 → 不動産評価5,500万円 − 借入1億円 = マイナス4,500万円
同じ1億円を動かすだけで、相続財産の扱いがこれだけ変わります。
注意しておきたいこと
ただし、この対策を安易に進めるのは禁物です。いくつか気をつけるべき点を挙げておきます。
まず、相続税の節税目的だけで不動産を買っても、空室リスクや流動性の低さがあります。10年後・20年後の出口を考えておかないと、相続した子供が困ることになります。
次に、相続税の節税効果が出るのは、あくまで「適正な取引」が前提です。直前の駆け込み購入や、明らかに節税目的と見られる取引は税務調査で否認されるリスクがあります。特に相続の2〜3年以内の大型購入は要注意です。
また、借入の金利負担も考慮が必要です。節税効果と金利コストのバランスを長期スパンで試算することが大切です。
動き出すなら早いほうがいい
相続対策は、元気なうちに時間をかけてやるものです。70代になってから慌てて動くより、50〜60代のうちに計画を立てておくほうが選択肢が広い。
「うちは不動産なんてないから関係ない」と思っていた社長も、融資を活用することで相続対策に取り組める可能性があります。まだ何も手を打っていないなら、一度、相続に強い税理士か税務専門家に現状の試算を依頼してみることをおすすめします。数字を見るだけで、動くべきかどうかが見えてきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。