先日、ある社長からこんな相談を受けました。「会社で持っていた物件をそろそろ手放そうと思っているんだけど、税金がかなり取られるって聞いて…何かいい方法はない?」

不動産の売却を検討している経営者の方から、こういった声はよく届きます。そしてほとんどの方が、売却益にかかる税金の大きさに驚きます。今日はそのモヤモヤを、スッキリさせる話をしましょう。

法人で不動産を売ると、利益の3割が消える

法人が保有する不動産を売却して利益が出ると、その売却益は通常の法人所得と合算されて課税されます。実効税率はおよそ30%前後。つまり2000万円の売却益が出た場合、単純計算で600万円近くが税金として出ていく計算です。

「せっかく高く売れたのに、6割しか手元に残らないのか」と肩を落とす社長は少なくありません。でも実は、このタイミングで使える強力な手法があります。それが「退職金との合わせ技」です。

売却のタイミングで退職金を出す、という発想

法人の売却益が大きく出る期に、同時に社長(または役員)に退職金を支給する。これだけで、課税の構造が大きく変わります。

退職金は法人にとって「損金」、つまり経費として計上できます。売却益2000万円が出た期に、適正額の退職金2000万円を支給すれば、課税所得はほぼゼロに近づきます。先ほどの例で言えば、600万円の税負担が限りなく小さくなるわけです。

これは裏技でも脱税でもありません。税法上、退職金は正当な損金として認められており、売却益との相殺は完全に合法的な節税手法です。

受け取る社長側も、実は税負担が軽い

ここで「でも退職金を受け取った社長側に税金がかかるんじゃ?」と思った方、鋭いです。ただ、退職所得には独特の優遇税制が用意されています。

まず「退職所得控除」という大きな控除があります。勤続年数が20年を超えると、1年あたり70万円の控除が受けられます。仮に勤続30年なら、控除額は1500万円超になります。

さらに、控除後の残額を2分の1にしてから課税するという仕組みもあります。給与や事業所得と比べて、実質的な税率が大幅に低くなるのが退職所得の特徴です。法人側で損金にできる上、個人側でも税負担が軽い。この二重構造が、退職金を使った節税の最大の魅力です。

具体的なイメージで考えてみる

少し数字で整理してみましょう。

  • 不動産売却益:2000万円
  • 退職金支給額:2000万円(適正額の範囲内)
  • 法人の課税所得:ほぼゼロ → 法人税もほぼゼロ

一方、社長個人の退職所得は、勤続年数に応じた控除と2分の1課税が適用されるため、仮に手取りで1700〜1800万円程度残るケースも十分あります。法人に置いておけば600万円が税金で消えていたお金が、個人にほぼ移転できるイメージです。

もちろん実際の計算は会社の状況や勤続年数、他の所得との兼ね合いによって変わりますが、ポテンシャルの大きさは伝わるかと思います。

「適正額」の壁は必ず確認する

ただし、ここで絶対に押さえておきたい注意点があります。退職金は「いくらでも出せばいい」わけではありません。

税務上の退職金の適正額は、一般的に「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式を基準に判定されます。この金額を大幅に超えると、超過部分が損金として認められないリスクがあります。

「節税したいから退職金を多めに出そう」という発想だけで動くと、後から税務調査で否認される可能性があります。金額の設定は必ず税理士と一緒に試算した上で進めることが前提です。

また、退職金は「実際に退職した」という事実が伴う必要があります。名義だけの退職や、退職後も実態として代表を続けているような場合は認められないこともあるので、その点も合わせて確認が必要です。

出口を考えるなら、早めに動く

不動産の売却は「売れたら考える」ではなく、「売る前に設計する」ものです。退職金との合わせ技は、売却した後から組み立てることはできません。売却益が出る期に退職金も支給する、というタイミングの一致が不可欠です。

「そろそろ物件を手放したいな」と思っている経営者の方は、今すぐ顧問税理士に「退職金と合わせた出口設計」について相談してみてください。売却の2〜3期前から準備を始めることで、選択肢の幅がぐっと広がります。

節税は、終わってから悔やむより、始める前に設計するものです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。