先日、資産管理会社を持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。

「会社の決算書を見た息子に『これ、俺が相続したら税金どうなるんだ』と聞かれて、顧問税理士に試算してもらったら4億近くなると言われた。正直、そんな現金どこにもない」

自分が一代で築いた会社を次の世代に渡したいのに、相続税が払えずに株式を売却せざるを得ない。そんな本末転倒な事態が、実際に起きています。

内部留保が増えるほど、相続税の請求書も育っていく

中小企業のオーナー社長にとって、会社の株式は最大の財産であることがほとんどです。そして非上場株式の評価方法のひとつ「純資産価額方式」では、会社の資産から負債を差し引いた純資産がそのまま株価に反映されます。

つまり、会社が黒字を積み重ねて内部留保が厚くなればなるほど、株価が上がり、将来の相続税もじわじわと膨らんでいく構造になっています。

純資産が10億円規模の会社であれば、相続税が3〜4億円を超えるケースも決して珍しくありません。「会社が儲かっているのに、なぜ罰せられるような感覚があるのか」と感じる社長が多いのも、無理のない話です。

現金を不動産に換えると、なぜ株価が下がるのか

ここで登場するのが「法人による不動産購入」という手法です。

仕組みはシンプルです。会社の帳簿上にある現金や預金を使って不動産を購入すると、その資産の評価額が変わります。現金は1円が1円として評価されますが、不動産は相続税法上の評価額で計算されるからです。

具体的には、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されます。これらは一般的に時価(実勢価格)の7割前後になることが多く、結果として帳簿上の資産評価が圧縮され、株価を引き下げる効果が生まれます。

たとえば、2億円の現金を法人名義で不動産に換えた場合、評価額が1億4,000万円程度に下がれば、差額の6,000万円分だけ純資産が減少する計算になります。これが株価の圧縮につながり、ひいては相続税の軽減に直結するわけです。

「不動産を買えばいい」だけでは済まない、3つの現実

ただし、この手法には注意しなければならない点がいくつかあります。

まず、過度な節税目的と税務当局に判断されるリスクがあります。近年、相続税対策を主目的とした不動産購入について、税務調査や裁判で「行き過ぎた節税」と認定される事例が増えています。2022年には最高裁でも節税目的の不動産購入に対して時価評価が適用されるという判決が出ており、以前に比べてリスクが高まっています。

次に、賃料収入や出口戦略まで含めた事業性の検討が不可欠です。純粋に節税のためだけに購入した不動産は、管理コストや空室リスクを抱えることになります。キャッシュフローが回る物件かどうかを経営判断として精査することが大切です。

そして、株価圧縮の効果は物件の種類や立地によって大きく異なります。収益還元法で評価される場合や、路線価が高い都市部の土地では、思ったほど評価が下がらないケースもあります。「不動産を買えば必ず節税になる」という単純な話ではありません。

対策を打つなら、相続が発生する「前」の今

この手法が有効に機能するのは、十分な準備期間と専門家との連携があってこそです。相続が発生してからでは間に合いません。

自社の株価がどのくらいになっているか、まだ把握していない社長は、まず顧問税理士に「今の株価で相続税を試算してほしい」と依頼することから始めてみてください。その数字を見て初めて、危機感が現実のものになります。

法人での不動産購入はあくまで選択肢のひとつですが、内部留保が厚くなっている会社ほど、早めに検討する価値のある手法です。「まだ先の話」と思っているうちに、株価だけが静かに育っていきます。今期の決算が終わったタイミングで、一度じっくり専門家と話してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。