「相続で渡すのと、生前贈与で渡すの、どっちが得なんですか?」

先日、複数の収益不動産を保有する建設業の社長から、こんな相談を受けました。そろそろ子どもへの資産承継を考えていて、「不動産は相続税評価が下がるから、そのまま相続でいいかな」と思っていたとのこと。

この感覚、完全に間違いではありません。でも、それだけで判断すると数百万円単位で損をするケースがあります。

「評価が下がるから大丈夫」の落とし穴

不動産の相続税評価額は、時価のおよそ7〜8割です。路線価や固定資産税評価額をもとに計算するため、実際に売れる金額より低く抑えられます。これは確かにメリットです。

ただし、相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」。相続人が3人なら、控除額は4,800万円にしかなりません。資産総額が1億円を超えるような社長には、この控除は焼け石に水です。

「不動産だから評価が下がる」という安心感で何もしないでいると、相続が発生したときに多額の税負担が待ち構えています。

2024年改正で生前贈与が使いやすくなった

ここで選択肢になるのが、生前贈与の活用です。

2024年から、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が追加されました。これにより、毎年110万円分を非課税で贈与できるようになっています。改正前は使いにくかった制度が、一気に実用的になったわけです。

さらに見逃せないのが、「値上がり益を先に渡せる」という点です。将来の評価上昇が見込まれる不動産なら、今の評価額で贈与しておくほうが有利になることがあります。10年後に評価が1.5倍になっていれば、今贈与した分の課税ベースはずっと小さいまま。これが「生前贈与の先手戦略」です。

タイミングと金額設計を誤ると逆効果

一方で、生前贈与には注意点もあります。

贈与税の税率は最高55%と高く、金額設計を誤ると節税のつもりが余計な税負担を生む結果になりかねません。「とにかく早く渡せばいい」という発想は危険です。

加えて、2024年以降は暦年贈与の「持ち戻し期間」が3年から7年に延長されました。亡くなる前7年以内に行った贈与は相続財産に加算されてしまうため、「早くから計画的に始めること」の重要性が一段と増しています。

判断を分けるのは「資産規模」と「時間軸」

結局、どちらが有利かは状況次第です。整理するとこうなります。

  • 資産が基礎控除の範囲に収まるなら、相続でも大きな問題はない
  • 資産規模が大きく、不動産の値上がりが見込まれるなら、生前贈与の早期活用が有利になりやすい
  • 7年以上の時間軸で計画を立てられるかどうかが、生前贈与の効果を大きく左右する

資産の種類、相続人の数、保有不動産の評価額と市場価値の差、将来の値動き——これらを総合的に見て判断する必要があります。

一つだけ確かなのは、「何もしない」のが最もコストが高いということです。

相続が発生してから慌てても、打てる手は限られます。まだ対策を始めていないなら、今期中に一度、保有資産の全体像を整理して、専門家に相談しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。