先日、年商3億円の建設業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「10年前に買ったマンション、個人名義のままにしてあるんですけど、何か問題ありますか?」

正直に言います。問題、あります。しかも一つじゃなく、三つあります。

不動産を個人名義で持ち続けることのリスクは、表面上なかなか見えてきません。毎月家賃が入ってくるし、確定申告も何とかこなしてきた。でも、気づいたときにはかなり高いコストを払っていた、というケースが後を絶ちません。

3位:税率の差が、思っているより圧倒的に大きい

給与所得がある社長が不動産を個人名義で持つと、家賃収入は「不動産所得」として給与と合算されます。これが総合課税という仕組みで、最高税率は所得税・住民税合わせて55%まで跳ね上がります。

たとえば年収2,000万円の社長が年間500万円の家賃収入を得た場合、その500万円にはほぼ最高税率圏の税率が適用されます。つまり、500万円の収入に対して250万円以上が税金で消えていく計算です。

一方、法人が同じ不動産を持っていた場合、法人税の実効税率は概ね23〜30%程度。同じ500万円の収益でも、手残りが100万円以上変わってくることがあります。

この差が毎年積み重なると考えると、放置するコストがどれほど大きいか、実感していただけると思います。

2位:相続が発生したとき、想定外の税が待っている

これは特に、50代以降の社長に深刻な話です。

個人名義の不動産は、そのまま相続財産として計上されます。収益不動産は路線価や固定資産税評価額で計算されますが、立地の良いものほど評価額が高くなりやすく、相続税も膨らみやすい構造になっています。

「自社株の承継対策は進めているけど、不動産はまだ手をつけていない」という社長は少なくありません。でも、株の対策だけ万全にしておいて、不動産の評価が相続財産に丸々乗ってきたら、想定外の相続税が発生することがあります。

法人で不動産を持っていれば、承継の形が変わります。不動産そのものを移転するのではなく、その不動産を持つ法人の株式を後継者に渡すという選択肢が生まれるため、評価のコントロールや分割がしやすくなります。相続対策の引き出しが一つ増える、という感覚で理解してもらえると近いと思います。

1位:移転タイミングを逃すことが、実は最大のリスク

「いつか法人に移そうと思っている」という社長、これが一番危ないパターンです。

不動産を個人から法人に移す際には、原則として時価での売却が必要です。このとき売却益には譲渡所得税がかかります。保有期間が5年超であれば長期譲渡所得として税率は約20%ですが、それでもまとまった税コストが発生します。さらに不動産取得税や登録免許税といった移転コストも法人側に発生します。

問題は、このコストが年々変わっていく点です。不動産の価値が上がれば売却益も増え、移転コストが膨らみます。また、税制は毎年改正されており、「今なら使える特例」が翌年には使えなくなるケースもあります。

そして、見落とされがちなのが健康リスクです。法人への移転には、金融機関の審査や各種契約手続きが伴う場合もあります。健康状態が良好なうちに着手しなければ、「やろうと思っていたのに、手続きが難しくなった」という状況になりかねません。

動かないことにも、確実にコストがかかっている

税率差・相続・移転タイミングの3つを整理してきましたが、共通して言えることがあります。

「今すぐ動かなくても損はしない」は、実は間違いです。何もしないこと自体が、毎年の税率差として損を積み重ね、相続時の選択肢を狭め、将来の移転コストを高めていきます。

もちろん、すべての社長に法人移転が正解というわけではありません。不動産の種類・規模・社長の年齢・法人の財務状況によって、最適な判断は異なります。

個人名義の不動産を持っているなら、まずは「自分がどのリスクを抱えているか」を整理するところから始めてみてください。税理士と棚卸しの時間を一度取るだけで、見えていなかった選択肢が出てくることが多いです。先延ばしにしている間にも、時計は動いています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。