先日、純資産が2億円を超えるある製造業オーナーから、こんな話を聞きました。「親の相続が終わって税理士から一言言われたんです。『現金が多すぎましたね』って。あのとき不動産に変えておけば、数千万円は違ったのに」と。

顧問税理士がいるのに、なぜ誰も教えてくれなかったのか。それは多くの税理士が「相続税の専門家」ではなく、不動産を活用した節税戦略を積極的に提案するポジションにないからです。顧問税理士は決算と申告が主な仕事。相続は「そのときになってから」と後回しにされがちなのが現実です。

現金1億円と不動産1億円、相続税の差は最大6000万円

相続税の計算でもっとも重要なのが「評価額」という概念です。現金や預貯金は1円たりとも減りません。1億円の現金は、そのまま1億円として相続税の課税対象になります。

ところが、賃貸用の不動産に変えると話が変わります。時価1億円のアパートを取得すると、土地や建物の評価額は国税庁のルール(路線価・固定資産税評価額)で計算されるため、市場価格より大幅に低くなります。さらに入居者がいる「貸家建付地」として扱われると、借地権割合や借家権割合の控除が入り、評価額はさらに圧縮されます。結果として、現金で持ち続けるより最大60%近く評価を下げられるケースが出てくるのです。

3つの手法を重ねると、効果が何倍にもなる

評価を圧縮する方法は一つではありません。資産の構成や家族の状況によって最適な組み合わせは変わりますが、代表的な3つの手法を知っておくだけで視界がガラッと変わります。

① 貸家建付地の評価減

アパートや賃貸マンションを建てた土地は「貸家建付地」として扱われます。更地(自用地)と比べて評価額が下がるのが特徴で、東京都内の住宅地なら10〜20%程度の減額になることも多いです。「賃貸を持つだけで評価が下がる」という基本のキが、意外と知られていません。

② 小規模宅地等の特例(最大80%減)

相続税の特例の中でも最強クラスの制度です。亡くなった方が事業や居住に使っていた土地は、一定の要件を満たすと評価額を最大80%減額できます。

評価額5000万円の土地がこの特例で1000万円扱いになれば、その土地にかかる相続税は劇的に変わります。対象面積や適用要件には制限がありますが、不動産を持つ社長なら最優先で確認すべき制度です。

③ 法人移転で株式評価に変換する

自社や個人が保有する不動産を資産管理会社などの法人に移すと、相続財産の種類が「不動産」から「非上場株式」に変わります。非上場株式の評価は純資産や利益をベースに計算されますが、法人の借入金控除や費用計上などを活用することで、直接不動産を持つより評価額を抑えられるケースがあります。

さらに、賃料収入を法人に帰属させることで個人資産が膨らむペースを抑えられるという副次効果もあります。相続までの時間が長い方ほど、このメリットは大きくなります。

「うちはまだ早い」が一番危ない

相続対策は「そのときになってから考えよう」では間に合いません。賃貸不動産を使った評価圧縮は、物件の取得・建築・融資の手続きに時間がかかるからです。亡くなる直前に慌てて不動産を取得しても、税務署から「相続税回避が目的」と判断されるリスクが高まります。

多くの相続専門税理士が口をそろえて言うのは「10年早すぎるくらいがちょうどいい」です。50代の社長が今から動き始めても、決して早くはありません。

まず「相続税目線の資産チェック」を一度やってみる

今すぐ相続が発生する状況でなくても、手元の資産が「現金・預金に偏っていないか」を確認することから始めてみてください。

不動産活用が有効かどうかは、土地の場所や賃貸需要、融資条件、家族構成など様々な要素によって変わります。ネットで調べた情報をそのまま当てはめても、最適解にはなりません。相続専門の税理士に現時点の資産一覧を持参して「今亡くなったら相続税はいくらか」を一度シミュレーションしてもらう。その一歩が、数千万円単位の差につながることがあります。

今期の決算が終わったタイミングで、一度相続専門家への相談を入れてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。