「相続税の試算が1億円を超えてしまって、どうにかならないかと思って……」
そんな相談を受けたのは、製造業を営む60代の社長からでした。事業は順調で、現預金もしっかり積み上がっている。ところがそれが「負」に転じるのが相続の場面です。現金は1億円あれば、そのまま1億円として課税されてしまいます。
評価額が変わると、税額が変わる
相続税は財産の「評価額」に対してかかります。現金はシンプルです。100万円の現金は、評価額も100万円。評価を下げる余地がほとんどありません。
ところが不動産に変えると、話が変わってきます。アパートの土地は「貸家建付地」として評価が下がり、建物は「固定資産税評価額」をベースに計算したうえで「借家権割合」を差し引けます。土地と建物、両方に評価減が効くため、合算すると現金で持っているときに比べて評価額が最大60%以上圧縮されることもあります。
6,000万円の削減に成功した社長の話
先の社長のケースに戻りましょう。手元にあった現金1億円を使って、土地を購入し、アパートを建設しました。同じ「1億円の財産」でも、現金のままなら課税財産は1億円。アパートに組み替えたことで、課税財産が大幅に圧縮されました。
結果として相続税の試算は、1億円から4,000万円にまで下がりました。差額は6,000万円。税理士報酬や建築費を差し引いても、圧倒的なメリットがあったケースです。
ご家族にとっての「手取りで受け取れる財産」という視点で見ると、その差はさらに大きく感じられるはずです。
なぜこれだけ差が出るのか
もう少し仕組みを掘り下げると、土地と建物それぞれに評価減の仕掛けがあります。
土地については、アパートを建てて入居者が住んでいる状態だと「貸家建付地」として評価が下がります。自由に売れない・使えない土地は、自由に使える土地より価値が低い、という考え方です。路線価からおよそ18〜21%程度の評価減になることが多いです。
建物については、固定資産税評価額をベースに計算します。建築費と固定資産税評価額は一致せず、一般に建築費のほうが高くなるため、その時点で評価が圧縮されます。さらに入居者が住んでいれば借家権割合30%を差し引けます。
この二重の評価減が積み重なることで、60%超の圧縮が現実になるわけです。
やる前に考えておくべきこと
ただし、この手法が「誰にでも向いている」とは言い切れません。いくつかリスクも正直にお伝えしておきます。
まず資金繰りの問題です。現金をアパートに変えるということは、流動性が下がることを意味します。手元の現金がなくなれば、急な資金需要に対応しにくくなります。
次に空室リスクです。評価額を下げるためには「入居者がいること」が前提になる部分があります。空室が続けば期待していた評価減が得られない可能性もあり、立地選びや賃貸管理会社の選定が重要になります。
さらに、相続発生前3年以内に購入した不動産の取り扱いについては、近年ルール変更の議論も続いています。対策は早いほど有利であることも、念頭に置いておく必要があります。
「何もしないコスト」に気づくことから始まる
現金を多く持っている社長ほど、実は「何もしないことのコスト」が高い状況にあります。毎年何もしないまま時間が過ぎるということは、課税財産が増え続けていることでもあります。
まずは相続税の試算を一度依頼して、「現金をどう組み替えるか」を検討するだけでも大きな差になります。不動産活用は税理士だけでなく、不動産会社との連携も不可欠です。両方の専門家を交えて、早めに動くことをおすすめします。
現預金が1億円を超えているなら、今期中に一度、試算だけでもしておく価値は十分あります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。