先日、製造業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。
「税理士から試算をもらったら、このまま何もしなければ法人税と相続税を合わせて2億4,000万円近く払うことになると言われた。子どもに会社を渡したいのに、このままでは現金が残らない」
2社を経営し、20年以上かけて積み上げてきた資産。それが税金でごっそり削られてしまう——そんな危機感を抱えた社長に提案したのが、「不動産保有法人スキーム」でした。
法人税と相続税は「同時に」対策できる
節税というと、法人税対策と相続税対策を別々に考えがちです。でも実は、この2つを同時に圧縮できる手法があります。
その鍵となるのが、収益不動産を法人に持たせる仕組みです。不動産の特性を活かすことで、毎年の法人税を下げながら、将来の相続税評価も同時に小さくすることができます。
一石二鳥——と聞くと軽く感じるかもしれませんが、実際の効果はかなり大きくなります。
法人税側のカラクリ:減価償却で課税所得を削る
収益不動産を法人で保有すると、建物部分を毎年減価償却費として費用計上できます。これが法人の課税所得を大幅に圧縮してくれます。
日本の法人実効税率は、所得800万円を超えると約34%に跳ね上がります。つまり、減価償却費によって課税所得を引き下げられれば、それだけ高い税率のゾーンへの課税を避けられる計算です。
田中社長(仮名)のケースでは、不動産から生まれる減価償却費が毎期の課税所得を押し下げ、法人税負担が継続的に軽減されました。1年あたりの節税効果が長期にわたって積み重なるのが、このスキームの大きな特徴です。
相続税側のカラクリ:評価額が時価より大幅に下がる
相続税は「財産の評価額」に対してかかります。現金1億円であれば評価額も1億円。でも不動産の場合、相続税評価額(路線価や固定資産税評価額を使って算定)は時価よりかなり低くなる特性があります。
さらに、法人で不動産を保有している場合、相続の対象は「不動産そのもの」ではなく「会社の株式」になります。株式の評価には純資産価額方式などが使われますが、含み益に対する法人税等相当額が控除されるため、評価がさらに圧縮されます。
「時価1億円の不動産を持つ会社の株式」が、そのまま1億円で評価されるわけではない——この評価の歪みを合法的に活用するのが、このスキームの相続税対策としての本質です。
2社合計で8,000万円超の節税効果
田中社長のケースでは、法人税側と相続税側の両面から効果が積み重なり、2社合計での節税効果は8,000万円超に達しました。当初の試算2億4,000万円が、約3分の1まで圧縮されたことになります。
「これなら子どもに会社を渡せる」と、社長がほっとされた表情が印象的でした。
ただし、同じスキームを使っても、効果の大きさは事業規模や資産構成によって大きく変わります。「うちも同じ効果が出る」とは限らない点は、しっかり押さえておく必要があります。
こんな社長ほど効果が出やすい
すべての法人に有効なわけではありません。一般的に、次の条件が重なるほど効果が出やすいとされています。
- 年間の課税所得が800万円を超えている法人を持っている
- 自己資金または法人の内部留保で不動産を取得できる余力がある
- 将来的に子どもや後継者への事業承継を予定している
- 相続財産の大部分が現金・有価証券など評価が下がりにくい資産で構成されている
逆に、法人の利益が少ない段階や、すでに個人資産が少ない場合は、効果が限定的になることもあります。
焦って動くより、早めに設計する
このスキームの効果は、長期にわたって積み重なるものです。60代に入ってから急いで始めるより、50代のうちに設計しておくほうが、減価償却の恩恵をより多く受けられます。
不動産市況や税制改正の影響も受けるため、「今がベストなタイミングかどうか」は専門家と継続的に確認していくことが大切です。
2億円超の税負担に頭を抱えていた社長が、8,000万円超の節税に成功した事例——「うちも似たような状況かもしれない」と思い当たる節があれば、まずは税理士に現状の試算を依頼するところから始めてみてください。動き出すのが早いほど、選択肢が広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。