先日、ある経営者からこんな相談を受けました。「親が現金で1億以上貯めているんですが、このまま相続したら税金で半分持っていかれるんですか?」。
こういった質問、最近本当に増えています。勤勉に資産を積み上げてきた親御さんを持つ経営者の方が、いよいよ相続という現実と向き合いはじめている。そんな時代になってきたと感じます。
答えを先に言います。現金のままだと、相続税評価額は1円も下がりません。でも、同じお金を賃貸不動産に変えることで、評価額を最大50%近く圧縮できる可能性があります。今日はその仕組みを、できるだけわかりやすくお伝えします。
現金1億円の相続税評価額は、1億円のまま
相続税の計算では、財産をどう評価するかが重要になります。現金や預貯金の場合、評価額は残高そのままです。1億円あれば1億円として課税対象になる。これが出発点です。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続人が子ども2人なら基礎控除は4,200万円。現金1億円なら、5,800万円に対して税率がかかってくる計算です。
税率は累進課税で、課税対象が多いほど高くなります。5,800万円の場合、実効税率はおよそ15〜20%程度になるケースも多い。何もしなければ、それだけの税金が発生します。
不動産に変えると評価額が2段階で下がる
では、同じ1億円を賃貸不動産の購入に充てたらどうなるか。相続税の評価方法が変わるため、評価額が大きく変わります。
まず土地の評価です。相続税における土地の評価は「路線価方式」が基本で、時価のおよそ80%が目安です。時価1億円の土地なら、相続税評価額は約8,000万円からスタートします。
そこからさらに、「貸家建付地」としての評価減があります。他人に貸している土地・建物は、借主の権利が発生している分だけ所有者の評価が下がる、という考え方です。借家権割合(通常30%)と賃貸割合をかけ合わせた分が控除されます。
建物についても、固定資産税評価額(時価の50〜60%程度)が基準となり、さらに賃貸中であれば借家権割合30%×賃貸割合の分が控除されます。この2段階の圧縮が効くことで、現金1億円で購入した賃貸不動産の相続税評価額は5,000〜6,000万円程度まで下がる可能性があります。
試算で見えてくる、数千万円の差
少し具体的に整理してみましょう。
現金1億円の場合、相続税評価額は1億円。相続人2人の基礎控除4,200万円を引いた5,800万円が課税対象です。
同じ1億円を賃貸不動産(土地7,000万円・建物3,000万円)に変えた場合、土地の路線価評価は約5,600万円。貸家建付地の評価減を適用すると約4,500万円程度になります。建物の固定資産税評価額は約1,200万円、借家権割合控除後は約840万円。合計で約5,340万円が評価額になる計算です。
基礎控除4,200万円を引いた課税対象は約1,140万円。現金1億円の場合の5,800万円と比べると、課税ベースが約4,660万円も変わります。相続税額に換算すると、数百万円規模の差が生まれることも珍しくありません。
節税目的だけの購入には大きなリスクがある
ここで大切なことをひとつお伝えしなければなりません。この仕組みが有効なのは、あくまで「実態のある賃貸経営」が前提です。相続税対策だけを目的に直前で不動産を購入するケースを、税務署は厳しく見ています。
2022年の最高裁判決では、節税目的の不動産購入に対して「路線価ではなく時価で評価する」という判断が下されました。購入してすぐ相続が発生した場合、あるいは明らかに節税目的と判断された場合には、評価減の効果が否認されるリスクがあります。
また、不動産は流動性が低い資産です。現金と違い、急な資金ニーズには応えにくい。空室リスクや管理コスト、修繕費も現実のコストとして発生します。相続税を圧縮できても、トータルで損をしては意味がありません。
動くなら早いほど、選択肢は広がる
相続税の評価方法は複雑で、自分で正確に試算するのは難しいです。路線価は国税庁のサイトで調べられますが、実際の計算には個別の条件が絡みます。税務署は聞かれなければ有利な情報を教えてくれません。申告する側が正しく知識を持ち、使える制度を活用することが、合法的な節税の第一歩です。
親御さんが現金で資産を持っておられる経営者の方は、一度、相続に詳しい税理士に試算を依頼してみることをおすすめします。評価額の差が数千万円になることも珍しくありません。相続対策は早く着手するほど選択肢が増えます。まだ何も手を打っていないなら、今期中に一度、ご自身の財産構成を見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。