「うちの不動産、個人で持ち続けて大丈夫ですかね?」

先日、年商3億円の建設会社を経営するKさんからこんな相談を受けました。築20年のマンション数棟を個人で所有していて、毎年の不動産収入は約2,000万円。「税金は払っているけど、こんなもんかなと思ってた」とおっしゃっていました。

その認識が、実はとても勿体ないケースだったのです。

個人だと、不動産収入の半分以上が税金になる

日本の所得税は累進課税です。所得が増えるほど税率が上がり、住民税を含めると最大55%まで達します。

不動産収入が2,000万円ある場合、他の所得と合算して税率45〜55%の圏内に入ることは珍しくありません。大まかに試算すると、税負担は1,000万円を超えることもあります。

「稼いだお金の半分以上が税金」——言葉にすると簡単ですが、実際に目の前に数字で突きつけられると、かなりのインパクトです。

法人経由なら、実効税率は約22〜30%に下がる

一方、法人(会社)が不動産収入を受け取る構造にすると、税率の前提がガラッと変わります。

法人税の実効税率は、中小企業の場合で約22〜30%程度(所得水準や資本金額によって異なります)。個人の最高税率55%と比べると、30ポイント以上の開きがあります。

同じ2,000万円の不動産収入を法人で受け取ると、税負担を500万円台まで圧縮できるケースがあります。

Kさんの試算に戻ると、こうなります。

  • 個人保有のまま:税負担 約1,000〜1,100万円
  • 法人経由に切り替え:税負担 約500〜600万円
  • 年間の差額:約400〜500万円

10年続ければ、累計で4,000〜5,000万円の差になります。「税率を変えただけで」です。

なぜ法人化でここまで変わるのか

個人の所得税は「稼ぐほど税率が上がる」累進構造になっています。不動産収入が多いほど、自動的に高い税率が適用されてしまいます。

一方、法人は「利益に対して一定の税率がかかる」フラット構造に近い。しかも法人には、役員報酬・退職金・各種経費など、個人にはない所得分散の手段が豊富に用意されています。

たとえば不動産管理会社を設立し、そこから役員報酬を配偶者や家族に分散支給する方法と組み合わせると、節税効果はさらに大きくなります。

法人化は単純に「入れ物を変える」だけでなく、そこから使えるオプションが増えることが本質です。

ただし、法人化が全員に向くわけではない

注意点もあります。

まず設立・維持コストの問題です。法人の設立には登記費用がかかり、毎年の決算・税務申告コストも発生します。不動産収入が少ない段階では、コストが節税効果を上回ってしまうこともあります。

次に既存物件の移転コストです。個人で持っている不動産を法人に移す場合、不動産取得税・登録免許税が発生し、場合によっては譲渡所得税もかかります。「法人化したい」と思っても、移転コストで計算が合わないケースもあるのです。

そのため「これから新規取得する物件は法人名義で」という方針が現実的なことも多いです。

さらに、個人の融資と法人の融資では、金融機関の審査条件が変わります。ローンの組み替えが必要になる場合もあるため、金融機関との関係も含めて慎重に判断する必要があります。

法人化を検討すべきタイミングの目安

判断の目安として、こんな基準があります。

法人化を前向きに検討すべきケース

  • 個人の課税所得がすでに年800万〜1,000万円を超えている
  • これから不動産投資をさらに拡大していく予定がある
  • 配偶者や家族を役員に据えて所得分散できる

個人のままでよいケース

  • 不動産収入が年200〜300万円程度でまだ少ない
  • 物件が1〜2件で今後の拡大予定がない
  • 家族への所得分散が難しい状況にある

「個人の課税所得が1,000万円を超えるあたり」が、法人化を本格検討する一般的なボーダーラインです。

まず「自分の場合いくら差が出るか」を数字で見る

Kさんは今回の試算を見て、来期から新規物件は法人名義で取得する方針を固めました。既存物件は移転コストの問題があり判断が難しいですが、少なくとも「これ以上個人で不動産を増やすのは止める」という決断ができた、とおっしゃっていました。

不動産収入が一定水準を超えているなら、まず「個人と法人でいくら差が出るか」を試算してみることをおすすめします。百万円単位の差額が数字で見えると、行動が変わります。

まだ個人だけで不動産を持ち続けているなら、一度税理士に法人化の試算を依頼してみてください。動くかどうかは数字を見てから判断しても、決して遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。