先月、不動産賃貸業も手がける年商3億円の建設会社の社長から相談がありました。「役員報酬、今のままでいいですよね?」という一言で始まったその相談。詳しく話を聞いてみると、事業年度スタートからすでに2か月半が経過していました。

「今月中に動かないと、1年間最適化できませんよ」と伝えたとき、社長の顔色が変わりました。

役員報酬を動かせるのは、1年に一度だけ

法人税法上、役員報酬を「損金」として認めてもらうためには「定期同額給与」であることが必要です。毎月同じ金額を支払い続けるというルールで、これを守ってはじめて全額損金に算入できます。

そしてこの金額を変更できるのは、原則として事業年度開始から3か月以内に限られます。この窓が閉じると、次に変えられるのは1年後。期限を過ぎてから金額を変えても、差額部分は損金不算入——税務上はなかったことになるのです。

3月決算の会社なら6月末、4月決算なら7月末が期限です。4月・5月スタートの会社にとって、今月はまさに期限直前という状況になります。

不動産節税と「噛み合わせ」が命

役員報酬を単独で考えるだけでは不十分です。法人が不動産を持っている場合、減価償却費が毎年の利益を大きく押し下げます。この減価償却と役員報酬の額がうまく噛み合っていないと、せっかくの節税効果が半減してしまうのです。

たとえばこんなケースを考えてみましょう。法人の年間利益が2,000万円、そこに減価償却費が600万円ある場合、課税所得は1,400万円になります。ここで役員報酬が適切に設定されていれば、法人の課税所得をさらに圧縮しつつ、個人の所得税も抑えられます。

ところが役員報酬の設定を1年間放置すると、減価償却の金額が毎年変わっているのに報酬だけが固定されたまま。結果として、法人税と個人所得税の合計が最適ではない状態で1年間を過ごすことになります。ケースによっては、年間120万円以上の節税機会を逃すことも十分あり得ます。

高すぎても、低すぎてもダメ

役員報酬の設定には「絶妙なさじ加減」が求められます。

高すぎると個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。特に年収が1,500万円や2,000万円を超えてくると、税率の段差がきつくなり、上げれば上げるほど手取りが目減りする感覚になります。

一方で低すぎると、法人の利益が残りすぎて法人税がかさみます。しかも内部留保として積み上がったお金は、将来取り出すときに再び課税されるリスクを抱えます。

理想は、法人と個人の課税ラインを毎年精密に調整し、「法人税率と個人の実効税率が均衡するポイント」を探ること。不動産の減価償却額は毎年変わりますから、その変化に合わせて役員報酬も見直すのが本来の姿です。

今月を過ぎると、次は1年後

4月・5月決算の会社のオーナー社長にとって、今月末はラストチャンスです。「とりあえず昨年と同じでいいか」と流してしまうのは、もったいない判断です。昨年から不動産の取得・売却があった方、役員構成が変わった方、業績が大きく変動した方は、特に見直しの余地がある可能性が高い。

今すぐ確認してほしいのはこの3点です。

  • 今期の減価償却費の見込み額を把握しているか
  • 法人・個人それぞれの課税所得の着地を試算しているか
  • 役員報酬の改定期限が今月末に迫っていないか

この3点が揃っていなければ、今すぐ顧問税理士に連絡することをおすすめします。税理士への相談が遅れれば遅れるほど選択肢が狭まります。逆に今月中に動けば、向こう1年間の税負担を最小化する設計が可能です。

役員報酬の改定は地味に見えますが、不動産を持つ法人オーナーにとっては年間最大級の節税アクションのひとつです。まだ今期の見直しをしていない方は、今月中に一度、税理士と数字を確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。