先日、ある社長からこんな相談を受けました。「税理士に相続税の試算をしてもらったら、思ったより高くて驚いた。現金と株式ばかり持っているのがよくないのかな」と。
その方は年商10億規模の製造業を経営されていて、資産の大半が金融資産。試算では相続税が数億円規模になるとのことでした。
こういうケースで、税理士がよく提案するのが「賃貸不動産の活用」です。なぜ賃貸マンションを1棟持つと相続税の評価額が大きく下がるのか——その仕組みを今日は丁寧にお伝えします。
路線価で土地の評価がまず下がる
相続税の計算では、土地は「時価」ではなく「路線価」で評価します。路線価は一般的に時価の約80%程度に設定されているため、それだけで2割の圧縮効果があります。
1億円の土地であれば、相続税の評価上は8,000万円として計算されるわけです。
現金や株式は時価そのままが課税対象になるので、この時点ですでに不動産の方が有利です。しかし賃貸に出すと、ここからさらに評価が下がります。
「貸家建付地」になると、もう一段階下がる
土地の上に賃貸物件を建てて入居者に貸し出すと、その土地は「貸家建付地」と呼ばれる区分に変わります。
貸家建付地には借家権(賃借人の権利)が存在し、地主が自由に使えない状態になっています。その分、評価額がさらに低く算定されるのです。
具体的には、路線価ベースの評価額から「借地権割合 × 借家権割合(30%)」分を追加で控除できます。借地権割合が60%の地域であれば、60% × 30% = 18%の追加控除です。
先ほどの8,000万円から18%を差し引くと約6,560万円。時価1億円の土地が、評価上は6,560万円になります。
建物の評価も圧縮される
土地だけではありません。建物の評価も大きく下がります。
建物は時価ではなく「固定資産税評価額」で評価します。これが時価の50〜70%程度です。さらに賃貸物件であれば、ここから借家権割合の30%を控除できます。
仮に建築費1億円の建物であれば、固定資産税評価額が6,000万円、そこから30%を控除して約4,200万円。時価の42%まで下がる計算です。
土地と建物の複合効果が「本当の理由」
土地の貸家建付地評価と建物の借家権控除、この2つが組み合わさると、資産全体として時価の3〜4割程度まで評価額が圧縮できるケースがあります。
たとえば土地・建物合計で2億円の物件が、相続税評価上は6,000〜8,000万円になる——これが、富裕層の相続対策に賃貸不動産が選ばれる本質的な理由です。
税務署の説明書には「賃貸不動産が有利」とは書いてありません。しかし計算の仕組みを知れば、その差がいかに大きいか実感できるはずです。
「とにかく買えばいい」わけではない
ただし、節税効果だけに目を向けるのは危険です。
評価圧縮の恩恵は、入居者がいることが前提です。空室が続けば貸家建付地としての適用が難しくなりますし、修繕費・管理費といったランニングコストも当然かかります。
「節税のために買う」という発想ではなく、賃貸需要のある立地を選び、収益性と相続対策の両面でシミュレーションしてから判断することが大切です。
今すでに金融資産の割合が高い方、現預金が資産全体の半分を超えているようであれば、一度、賃貸不動産の活用を専門家と一緒に検討してみてください。相続対策は動き出すほど選択肢が広がります。早めの一手が、数千万円単位の差につながることも珍しくありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。