先日、年商3億円の不動産賃貸業を営む社長から、こんな連絡が来ました。
「10年かけて区分マンションを買い続けてきたんですが、先生から『スキームが使えなくなった』と言われて…。どういうことなんでしょうか」
この社長、相続税の節税目的でタワーマンションを含む複数の区分マンションを保有していました。時価3億円の物件群が、路線価計算では1.5億円以下に評価されていた。その差額が「節税」のうまみだったわけです。
ところが2024年、国税庁がこの手法に正式にメスを入れました。
「路線価60%未満」に補正が入るようになった
従来、相続税における不動産の評価は「路線価方式」が基本です。時価よりも低く評価されることが多く、これを活用した節税が広く使われてきました。
ところが国税庁は2024年1月から、路線価評価額が時価の60%を下回る場合、いわゆる「通達6項」を適用して時価に近い水準で評価し直す方針を明確にしました。タワーマンションを中心に、この補正が現実に適用されるケースが急増しています。
仮に時価1億円のマンションが路線価で4,000万円と評価されていたとします。補正前なら課税対象は4,000万円。補正後は時価の8,000〜9,000万円ベースに引き上げられる可能性がある。税率や他の財産との組み合わせにもよりますが、それだけで1,000万円単位の差が生まれることは珍しくありません。
10年かけて構築した節税プランが、一通の通達改正で根底から崩れる。これが今、多くの社長に起きていることです。
「取得3年以内」にも別の壁がある
もう一つ、見落としやすい落とし穴があります。
取得から3年以内の不動産については、路線価ではなく通常の取引価格(時価)で評価されるルールが以前から存在します。「急いで不動産を買って相続税を下げる」という駆け込み的な手法を封じるためのものです。
つまり、最近マンションを購入した社長は、路線価の恩恵を受けるまでに3年待たなければならない。その間に相続が発生すれば、節税どころか想定外の課税が来る可能性があります。
「買ったばかりだから大丈夫」ではなく、「買ったばかりだから要注意」という逆転の発想が、今は必要です。
今からでも間に合う3つの視点
では手詰まりかというと、そんなことはありません。使える手法はまだあります。ただし「手法ありき」ではなく、自分の資産構成・相続の時期・家族関係を踏まえた上での判断が前提になります。
法人名義での長期保有と減価償却の活用
個人で不動産を保有するより、法人で保有するほうが節税の自由度が高い場面があります。法人であれば減価償却費を経費として計上でき、利益を圧縮しながら資産を積み上げることができます。相続対策というより、法人の税負担軽減と資産形成を同時に設計し直すイメージです。
小規模宅地等の特例を正しく組み合わせる
被相続人が事業や居住に使っていた土地については、一定の条件のもとで評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」があります。今回の改正の影響を受けにくく、かつ効果が大きい手法のひとつです。ただし適用要件が細かく、使い方を誤ると適用外になるリスクもあるため、専門家との確認が必須です。
既存の節税プランを今すぐ「点検」する
既存のプランが2024年以降の改正に対応しているか、担当税理士に確認してもらうことが最優先です。特にタワーマンションや区分所有マンションを複数保有している場合、「路線価60%未満」の補正が適用されるリスクを見積もってもらうだけでも、大きな違いが生まれます。
改正の波は、これで終わりではない
国税庁は今回の通達改正に加え、区分所有マンションの評価方法そのものを見直す議論を継続しています。2026年の税制改正でも、不動産を活用した節税スキームへの規制がさらに強化される方向で検討が進んでいます。
「今年使えた手法が来年も使える」という前提は、もう通用しません。1〜2年に一度は節税プラン全体をアップデートする習慣が、これからの経営者には必要です。
不動産を3件以上お持ちの方、あるいは数年前に「節税目的でマンションを購入した」という方は、一度プランの棚卸しを専門家に依頼することをおすすめします。手遅れになる前に動けるかどうか、それだけで1,000万円単位の差がつく時代になっています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。