先日、建設業を営む社長からこんな相談を受けました。

「父親から引き継いだ土地が3億円分あって、自分が亡くなったときの相続税が心配で……。子どもたちに迷惑をかけたくないんですよ」

試算してみると、相続税の負担は8,000万円を超える水準でした。その社長、青ざめた顔でこう言いました。「土地を売らないと払えないじゃないですか」と。

個人保有の不動産が「相続税の爆弾」になるワケ

不動産の相続評価は、市場で売れる価格(時価)ではなく「路線価」を使います。路線価は一般的に時価の8割前後。時価3億円の物件なら、相続税の評価額は約2.4億円になります。

「8割に下がるなら少しはマシじゃないか」と感じる方もいるかもしれません。でも、2.4億円の評価額にかかる相続税率は最高55%。課税対象財産が大きいほど税率が上がる累進課税ですから、不動産が多いオーナーほど税負担は重くなります。

しかも不動産は現金化しにくい資産です。相続税の納付期限は10か月。「税金を払うために先祖代々の土地を手放した」という話は、今もよく起きています。

不動産法人化で評価額を圧縮する仕組み

この問題に対して有力な手法のひとつが「不動産法人化」です。個人名義の不動産を法人に移し、その法人株式を相続財産とする設計です。

株式の相続税評価は「法人の純資産・収益力」をもとに計算されます。ここで重要なのが「借入の活用」です。

法人が金融機関から融資を受けて不動産を取得した場合、その借入金は法人の負債として計上されます。純資産の計算では資産から負債を引くため、借入がある分だけ株式の評価額は下がります。同じ3億円の物件でも、個人保有のまま相続するよりも、借入込みの法人株式として評価した場合のほうが税負担は大幅に軽くなるわけです。

さらに法人化すると、役員報酬や減価償却費を活用して法人利益を調整する余地も生まれます。評価額の圧縮手段が複数持てる点も、法人化の大きなメリットです。

持株会との組み合わせ「2段階設計」

不動産法人スキームをさらに強化するのが、持株会との組み合わせです。

法人株式の一部を従業員持株会に分散すると、オーナーが保有する議決権比率が変わります。相続税の株式評価では、会社を支配できる比率の株式と、少数株主が持つ株式で評価方法が異なります。オーナーの保有比率が下がることで、残りの株式が「小会社評価」や「配当還元方式」に近い計算になるケースがあり、評価額がさらに圧縮されます。

  • 第1段階:不動産法人化+借入で株式評価を圧縮
  • 第2段階:持株会でオーナー保有株式の評価をさらに引き下げる

この2段階設計によって、当初の相続税試算額の半分以下に抑えた事例が報告されています。効果は物件の種類・規模・法人設計によって変わりますが、不動産を多く保有しているオーナーほど、検討する価値は高いと言えます。

準備には2〜3年かかる、だから今動く

このスキームには時間がかかります。法人設立、不動産移転、融資組成、持株会の設立と運営開始、そして評価額が実際に変化するまでに、最低でも2〜3年は必要です。

不動産を法人に移転する際には不動産取得税や登録免許税が発生しますし、融資条件(金利・期間・担保設定)の精査も欠かせません。また、法人の株式構成や役員設計を誤ると、後から修正するコストが膨らみます。「とりあえず法人を作った」という見切り発車は、節税どころか余計なコストを生む原因になります。

早く動くほど選択肢が広がる。これはどんな相続対策にも共通する鉄則です。

まずは「現状の評価額を知る」ことから

相続対策の第一歩は、今の相続税評価額を把握することです。試算するのが怖い、という方こそ、早めに数字を見ておくべきです。

「うちにはまだ関係ない」と思っていた社長が、いざ試算してみると「今日から動かないと間に合わない」という結果になるケースは少なくありません。不動産を個人で保有しているなら、今期中に専門家に相談しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。