先日、法人で不動産を持つある社長から、こんな連絡が届きました。「決算が終わって税理士に確認したら、役員報酬のせいで追徴税額が出そうだと言われた」と。
詳しく聞いてみると、「節税になると思って報酬を上げた」のが原因でした。善意の判断が、逆に税務リスクを生んでしまったのです。
実は、役員報酬には「やってはいけない3つの設定ミス」があります。知らないまま決めていると、節税どころか追徴課税を招くことになりかねません。
NG設定①:役員報酬を高くしすぎる
法人で不動産を持ちながら役員報酬をぐんと上げると、一見すると法人の利益が圧縮されて節税になるように見えます。ところが、税務署にはこんな判断基準があります。
「不相当に高額な役員給与」と認定されると、その超過分が損金に算入できなくなるのです。
たとえば、年収2,000万円の報酬を設定したとします。税務署が「妥当な報酬は1,200万円」と判断すれば、800万円分は経費として認められません。その結果、法人の課税所得に800万円が上乗せされる計算になります。
不動産法人の場合、収益規模や業務実態に対して過度な報酬額を設定していると、税務調査で真っ先に指摘されます。「利益を消すために報酬を上げた」という意図が透けて見えると、特に要注意です。
NG設定②:毎月の支払額がバラバラ
3つのミスの中で、もっとも厳しいルールがこれです。
法人税法では、役員報酬を損金(経費)に算入するための条件として、「定期同額給与」であることが求められています。毎月決まった同額を支払わなければならない、というルールです。
たとえば、3月は50万円、6月だけ120万円、9月は30万円……といった支払いをしていると、全額が損金不算入になります。一部ではなく「全額」です。
さらに怖いのが重加算税のリスクです。意図的な操作と判断された場合、通常の過少申告加算税(10〜15%)ではなく、重加算税35%が課されることがあります。数百万円単位の税金が一気に乗ってくることも珍しくありません。
「資金繰りが苦しかったから今月は少なめにした」「ボーナス代わりに年2回まとめて払った」——そんな軽い判断が、取り返しのつかない結果を招くことがあるのです。
NG設定③:役員報酬を低くしすぎる
「低くしすぎても問題があるの?」と思う方も多いでしょう。でも、これも立派なミスです。
役員報酬を低く抑えると、その分だけ法人の課税所得が増えます。法人税の実効税率は約34%ですから、報酬を年間300万円低く設定しただけで、法人税が約100万円増える計算になります。
「社会保険料を減らしたい」「個人の所得税率が高いから」という理由だけで極端に低くしてしまうと、個人と法人を合わせた税負担がかえって重くなることがあります。
最適な報酬額は、法人の利益水準・個人の所得状況・社会保険料とのトレードオフを総合的に見て決めるものです。どこか一点だけを見て調整すると、全体でしっぺ返しを食らいます。
役員報酬は「年に一度しか変えられない」
もう一つ押さえておきたいのが、変更タイミングの制約です。
定期同額給与のルール上、役員報酬を変更できるのは原則として「事業年度開始から3か月以内」だけです。業績が想定外に悪化しても、逆に好調すぎても、期中に自由に変えることはできません。
「とりあえず高めに設定して、後で調整しよう」という発想は通用しません。事業年度の初めに、しっかりと試算して決めることが何より重要です。
役員報酬の設定は法人の税コストを大きく左右するにもかかわらず、「なんとなく」で決めてしまっている社長が意外と多いのが現実です。
新しい事業年度が始まる前に、税理士と一緒に最適な報酬額を試算しておくことを強くおすすめします。1回の設定ミスが、数年にわたって余計な税負担を生み続けることがあるからです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。