先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。
「そろそろ息子に会社を譲ろうと思っているんだけど、相続税がいくらかかるか計算してみたら、とんでもない額になっていて……」
手元には現金と土地を合わせて数億円の資産がある。それがそのまま相続税の対象になる、という現実に、初めて直面した瞬間でした。
じつは、事業承継における相続税は「どう持つか」で評価額が大きく変わります。同じ1億円でも、現金で持つのか不動産で持つのかによって、相続税の課税対象になる金額が3割以上変わることも珍しくありません。
今回は、不動産を活用した事業承継の節税スキームを、効果の小さいものから順に3つ紹介します。
3位:現金を不動産に換えるだけで評価が下がる
相続税における不動産の評価は、市場の実勢価格(時価)とは異なる「路線価」で計算されます。この路線価は、おおむね時価の80%前後が目安です。
つまり、手元に1億円の現金があるとします。そのまま持っていれば、相続税の課税対象は1億円。ところが同じ1億円で不動産を購入すると、相続税評価は約8,000万円になる計算です。
2,000万円の評価圧縮が、「買うだけ」で実現できる。これが不動産節税の基本原理です。
ただし、不動産はすぐに現金化できない点や、管理コストがかかる点も考慮が必要です。「節税になるから」と焦って物件を買い集めるのではなく、収益性との兼ね合いで判断するのが鉄則です。
2位:小規模宅地の特例は「使わないと損」な制度
事業承継において、見落としてはいけないのがこの特例です。
「小規模宅地の特例」とは、事業に使っている土地について、400㎡までを相続税評価額から80%減額できる制度です。
1億円の事業用土地があったとして、この特例を適用すると、相続税の課税対象となる評価額はわずか2,000万円まで圧縮されます。8,000万円分の評価が消える、と言い換えてもいい。
適用条件は「被相続人または生計を同じにする親族が事業用に使っていた土地であること」「申告期限まで引き続き事業を営むこと」などがあります。要件を満たしているにもかかわらず、知らずに使っていないケースが非常に多い特例です。
顧問税理士に「うちの土地、小規模宅地の特例は使えますか?」と一度確認してみてください。
1位:不動産管理会社スキームが最も効果大
3つの中で最もインパクトが大きいのが、このスキームです。
仕組みはシンプルで、後継者を株主とする法人(不動産管理会社)を設立し、オーナー社長が所有している不動産をその法人に集約します。
そうすると何が起きるか。不動産から生まれる賃料収入が、法人を通じて後継者側に流れていきます。一方で、被相続人(社長)の手元には収入が入らなくなるので、時間の経過とともに社長の財産が自然に圧縮されていく構造になります。
現金を不動産に換えるのが「一時点での評価圧縮」なのに対し、このスキームは「毎年継続的に財産移転が起きる」のが最大の特徴です。早く始めるほど効果が大きくなります。
ただし、法人設立・不動産移転には費用がかかりますし、税務上の実態要件もあります。形だけ法人を作っても認められないケースもあるため、必ず税理士と一緒に設計してください。
3つを組み合わせるのが王道
この3手法は、それぞれ独立したものではなく、組み合わせて使うことで効果が最大化します。
- まず現金を収益不動産に換える(評価圧縮)
- その不動産に小規模宅地の特例を適用する(さらに80%減)
- 不動産管理会社を通じて後継者へ継続的に移転する(長期的な財産圧縮)
事業承継は、「いつやるか」が節税効果を大きく左右します。相続が発生してから慌てても、使える手法は限られてしまいます。
60代のうちから少しずつ手を打っておくことが、結果として何千万円もの税負担の差につながります。まだ具体的な対策を何もしていないなら、今期中に一度、顧問税理士に事業承継の相談の場を設けることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。