先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「工場と土地を息子に渡したいんだけど、相続税がどれくらいかかるのか怖くて試算すら頼んでいない」というんです。

気持ちはわかります。でも、試算を先延ばしにしているあいだにも、使える対策の選択肢は一つずつ消えていきます。今日はその話をしましょう。

税務署が積極的に教えない「評価のズレ」

相続税の計算に使う不動産の評価額は、実際に売れる市場価格(時価)とは別物です。路線価や固定資産税評価額をベースに算出するため、時価より20〜40%低く計算されることが多い。

たとえば、市場で5億円で売れる不動産でも、相続税の計算上は3〜4億円になることがあります。この差額だけで、相続税は数千万円単位で変わってきます。

不動産を持っているだけで、すでにここまでの優位性があるんです。

賃貸に出すと、評価額がさらに下がる

ここからが本題です。

その不動産を賃貸に出すと、「貸家建付地」や「貸家」として評価されます。この区分になると、評価額がさらに20%程度下がります。更地や自己使用の不動産と比べると、合計で3〜4割の評価圧縮が実現できる計算です。

5億円の資産を持つ社長の話で言えば、この仕組みをうまく活用することで評価額を3億円台に抑え、相続税を数千万円単位で削減できたケースがあります。「不動産を持って、賃貸に出す」というシンプルな行動だけで、これだけの差が出るんです。

法人で保有すれば、事業承継も同時に解決する

個人で不動産を持つだけでも効果はありますが、法人を使うとさらに強力になります。

資産管理会社を設立して不動産を保有させ、その会社の株式を後継者に少しずつ移していく形です。賃料収入は法人を経由して後継者に渡っていくので、生前から計画的に資産と収益を移転できます。

「一気に大きな相続税を払う」のではなく、「じわじわと設計しながら承継する」やり方です。相続対策と事業承継が、一つのスキームで同時に動くのが法人活用の強みです。

2027年12月末が期限の特例を見逃してはいけない

組み合わせるべきもう一つの制度が、事業承継税制の特例措置です。

本来、自社株を後継者に渡すと高額の贈与税・相続税がかかります。ところがこの特例を使うと、納税が猶予されて実質ゼロになります。問題は、この特例の申請期限が2027年12月末だという点です。

不動産の評価圧縮スキームとこの特例を組み合わせると、不動産保有法人の株式を特例で承継しながら、相続税・贈与税の両方を抑えて会社ごと後継者に渡すことができます。今がこの組み合わせを使える、最後のタイミングかもしれません。

「うちは関係ない」と思っているうちが一番危ない

「何十億もあるわけじゃないし…」という社長が多いのですが、実は資産が5億円前後の規模こそ、この対策が最も機能するゾーンです。

資産が少なすぎると対策コストが見合わず、多すぎると別の問題も出てくる。5億円前後は「適切な手を打てば大幅に税負担を下げられる」ちょうどいいラインなんです。

動くなら今期中に

不動産を使った相続・承継対策は、「決算直前に動いても間に合わない」ことがほとんどです。法人設立、不動産の移転、管理体制の整備と手順が多く、評価額の計算タイミングも絡んでくる。

2027年12月末の期限から逆算すると、今から動いてもギリギリのスケジュールです。「そのうち考えよう」と思っているなら、今期中に税理士へ相談することを強くおすすめします。後回しにするたびに、使える手札が一枚ずつ消えていきますから。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。