先日、都内に賃貸マンションを3棟保有する製造業の社長から、こんな相談を受けました。「相続税って、財産のどのくらい取られるんですか?」
一緒に試算してみると、現在の財産規模だと相続税は1億円を超える見込みになりました。「え、そんなに……」と絶句されていた顔が今でも忘れられません。
不動産をたくさん持っている社長ほど、この問題は深刻です。でも実は、不動産には現金にはない「節税の仕組み」がいくつか用意されています。今回はそのポイントを整理してお伝えします。
相続税の最高税率は55%——不動産オーナーが直面するリアル
日本の相続税は、課税価格が6億円を超える部分に対して最高55%の税率が課されます。「自分には関係ない」と思いがちですが、都市部の不動産を複数持つ社長は、想像以上に対象になりやすいのです。
現金なら分割しやすいですが、土地や建物はそうはいきません。相続税の納税資金が手元になくて、売りたくない不動産を急いで手放さなければならない——そんなケースが実際に起きています。
ただ、ここで少し落ち着いて考えてみてください。不動産には現金にはない「評価を下げる」仕組みがあります。
路線価評価——時価より約3割低く評価される仕組み
相続税の計算において、土地の評価は「路線価」を使います。国税庁が毎年公表するこの価格は、一般的に時価(実際に売れる価格)より15〜30%ほど低くなっています。
たとえば市場価格1億円の土地が、路線価評価では7,000万円になることがある。それだけで相続税の計算上の財産が3,000万円圧縮されるわけです。
現金1億円は相続税上でも1億円ですが、不動産に換えることでその評価額を下げることができる——これが不動産節税の基本的な考え方です。賃貸物件であればさらに評価額が下がる「貸家建付地評価」も使えます。
小規模宅地等の特例——最大80%減という切り札
さらに強力な制度があります。「小規模宅地等の特例」です。
被相続人が住んでいた自宅の土地や、事業に使っていた土地について、一定の要件を満たせば相続税の評価額を最大80%減額できます。自宅の敷地330平方メートルまでを80%減にすると、評価額1億円の土地が2,000万円の評価になる計算です。
これは非常に大きな節税効果で、適用できるかどうかで何千万円も変わることがあります。ただし、誰が相続するか、継続して住むかなど、要件が細かく定められています。「たぶん使えるだろう」ではなく、事前に確認しておくことが欠かせません。
法人化という選択肢——財産を圧縮しながら収益を維持する設計
資産規模が大きい方にもう一つ有効な手段が、「不動産の法人保有」です。
個人で保有している不動産を、新たに設立した資産管理会社に移転する方法です。法人が保有する不動産は、社長個人の相続財産に含まれません。代わりに、その法人の株式が財産になります。
株式の評価額は計算方法によっては不動産をそのまま相続するより低くなることがあります。また、賃貸収入を法人に蓄積しながら、計画的に子どもに株式を贈与していくことで、少しずつ財産を移転していく設計も可能です。「不動産は手放したくないが、税負担は下げたい」という社長に向いている選択肢です。
対策は「早めに、専門家と」が絶対条件
相続税の節税は、生前に設計してこそ効果が出ます。亡くなってから動いても間に合わないことがほとんどです。
小規模宅地の特例は「誰が相続するか」の設計が必要ですし、法人化には登記費用や税務処理のコストも伴います。どの方法が最適かは、現在の財産構成・家族構成・事業の状況によって大きく異なります。
まずは今の資産をざっくりリストアップして、税理士に「相続税の試算をお願いします」と一言伝えてみてください。試算してみると、対策の緊急度がはっきり見えてきます。不動産を持っている社長こそ、早めに動くことが最大の節税になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。