先日、都内で賃貸マンションを複数棟保有する60代の社長から、こんな相談を受けました。
「そろそろ子どもに財産を渡したいんだが、相続税がいくらかかるか計算したら、ぞっとした。何か手はないか?」
この社長が保有する不動産の時価は、合計で約2億円。試算してみると、このまま相続すると相続税だけで4000万円前後になる可能性があると分かりました。
「直接相続」が一番、税務署に有利な方法
多くの方が思い描く「自分が亡くなったら不動産をそのまま子どもへ」というシナリオ。実はこれ、税務上はもっとも損をしやすいパターンです。
不動産を直接相続すると、相続税の計算は「相続税評価額」を基に行われます。土地は路線価、建物は固定資産税評価額をもとに計算されますが、賃貸物件であれば借地権割合などで多少圧縮できるものの、時価に近い水準で評価されるケースは少なくありません。
時価2億円の不動産が、相続税評価額で1億5000万円前後に残るとすれば、基礎控除などを差し引いても、相続税の負担は数千万円規模になってしまいます。
株式に変えると、評価が変わる
ここで活用を検討したいのが「法人移転」という手法です。
仕組みはシンプルです。まず、自分(または家族)が株主となる不動産管理会社や資産管理会社を設立します。そして、個人で保有している不動産をその法人に移転します。
不動産を法人が所有するようになると、相続財産の中身が変わります。直接の「不動産」ではなく、「法人の株式」が相続対象になるのです。
ここが節税の核心です。
非上場の中小法人の株式は、「取引相場のない株式」として評価されます。評価方法はいくつかありますが、純資産価額方式で計算した場合でも、不動産の時価より低く評価されるケースが多く出てきます。
なぜかというと、法人には不動産の他に負債(借入金など)もあり、それらを差し引いた純資産が評価ベースになるからです。さらに、評価の計算過程で「法人税相当額控除」といった調整も入るため、同じ不動産でも個人で持つより評価額が下がりやすい構造になっています。
実際に2000万円以上の差が出た事例
この手法を使うことで、相続税評価額を大幅に圧縮できた事例があります。
時価2億円の不動産を個人名義のまま相続すると1億5000万円台で評価されていたケースで、法人に移転してから株式として相続することで評価額が1億3000万円を下回るまで圧縮された、という事例もあります。この差額が課税対象から外れることで、相続税の差は2000万円以上になりました。
「2000万円」という数字は決して大げさではなく、不動産の規模や法人の財務状況によっては、さらに大きな節税効果が出ることもあります。
注意点も正直に話します
ただし、この手法には「気をつけるべき点」も複数あります。
法人移転時のコスト:不動産を個人から法人へ移すときは、原則として時価での売買となります。このとき「みなし譲渡」として所得税が課税される可能性があり、移転コストがかかります。また、不動産取得税や登録免許税も発生します。
法人維持コスト:法人を設立・維持するには、毎年の決算申告費用(顧問税理士への報酬)や、法人住民税の均等割など、一定のランニングコストがかかります。
出口戦略とセット:株式の評価圧縮は有効ですが、将来その不動産を売却する場合などは、また別の税務問題が生じる可能性があります。相続対策として設計するなら、長期視点で「どう使い続けるか」まで含めて考える必要があります。
つまり、この手法は「タイミング」と「状況」が合っていれば非常に強力ですが、全員に無条件でおすすめできるものではありません。
「そのままにしておく」のも判断のうちです
相続税対策は、焦ってやるものでも、なんとなく先延ばしにするものでもありません。大切なのは「現状のままだといくらかかるのか」をまず知ること。
その数字を見た上で、法人化のコストと節税効果を比較して、初めて「動く/動かない」の判断ができます。
ご自身の不動産の相続税評価額をまだ試算したことがない方は、まず顧問税理士に概算を出してもらうことをおすすめします。数字が出て初めて、打ち手が見えてきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。