先日、東京近郊にアパートを3棟持つ60代の社長から、こんな相談を受けました。
「子どもに不動産を残してやりたいんだけど、相続税がとんでもない額になりそうで…。時価で3億円くらいあるんだが、半分近く持っていかれるんじゃないかと怖くて」
その不安、実はある意味正しいんです。個人で不動産を持ったまま相続を迎えると、路線価や固定資産税評価額が使われるとはいえ、億単位の資産を持つ方にとっては何もしなければ数千万円規模の税負担になることも珍しくありません。
でも実は、法人(会社)を使うと、この評価額を大幅に圧縮できる方法があります。
法人化すると相続税の評価が下がる理由
個人で不動産を持っていると、相続財産は「その不動産そのもの」です。不動産の評価額がそのまま相続税の計算対象になります。
ところが法人で不動産を保有すると、相続人が引き継ぐのは「不動産」ではなく「会社の株式」です。ここがポイントです。
株式の相続税評価(純資産価額方式)では、法人内に含み益がある場合、その含み益に対して法人税等相当額として約37%が控除されます。3億円の不動産を法人が保有していて、帳簿価額との差(含み益)が大きいほど、株式の評価額は引き下げられる計算になります。
古くから持っている物件で時価と帳簿価額の差が開いているほど、この効果は絶大です。
株式の生前分散でさらに圧縮を重ねる
法人化の節税効果はこれだけではありません。会社を設立したとき、あるいは増資のタイミングで、配偶者や子どもを株主として組み入れることでさらに圧縮が図れます。
生前に株式を家族へ分散しておくと、相続が発生した際に被相続人(社長本人)が持つ株数が少なくなります。相続税は「誰が何株持っているか」ベースで計算されるので、生前分散が進んでいるほど課税対象が減ります。
「法人化による含み益控除」と「生前の株式分散」を組み合わせると、効果は単純な足し算以上になります。
時価3億円の不動産で70%以上の圧縮を実現した事例
実際に、時価3億円の収益不動産を法人に移して大幅圧縮を実現した事例があります。
法人内の含み益に37%控除を適用して株式評価額を引き下げ、さらに配偶者・子ども2人に生前から株式を分散。この組み合わせにより、相続税の課税ベースとなる財産評価額が時価の30%未満まで下がりました。
つまり評価額ベースで見ると「70%以上の圧縮」が実現したわけです。個人保有のままなら数千万円規模だった相続税負担が、法人化と生前分散の合わせ技で劇的に抑えられた事例です。
維持コストは年間10万円ほど
「法人を作ると管理が大変じゃないの?」という声はよく聞きます。
初期コストは確かにかかります。法人設立費用に加え、不動産の移転登記にかかる不動産取得税・登録免許税の関係で、物件によっては数十万〜数百万円規模になることもあります。
ただし、いったん法人に移してしまえば、維持コストは年間10万円程度(税務申告費用など)で済むケースが大半です。節税効果が数千万円規模と試算されるなら、初期投資の回収は十分に見込めます。「コストがかかる」という印象だけで足踏みしている方は、まず試算を見てから判断してほしいと思います。
注意点:含み益が小さいと逆効果になることも
とはいえ、法人化が全員にとって最適解かというと、そうではありません。
不動産の含み益が小さいケースでは、移転コストに見合う節税効果が出ないことがあります。また、法人設立後に短期間で相続が発生すると、株式評価の計算上、圧縮効果が薄れる場合もあります。
「法人化すれば必ずトク」ではなく、個別の数字を出してから動くのが絶対条件です。含み益の大きさ、移転コスト、相続までの想定期間——これらを踏まえた試算なしに動くのはリスクです。
今の不動産保有状況を一度見直してみてください
億を超える不動産を個人で持ち続けることが、相続においては最もコストの高い選択になっているケースは少なくありません。まだ法人化を検討したことがない社長は、担当税理士に「法人移転した場合の相続税評価の試算」を依頼してみてください。試算だけなら費用がかからない事務所がほとんどです。数字を一度見てしまえば、判断はずっとしやすくなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。