先日、都内でアパートを3棟保有する60代の社長からこんな相談を受けました。「税理士に『早めに相続対策を』と言われているけど、何をどうすればいいのか分からなくて、ずっと後回しにしてしまっている」と。
話を聞いていくうちに、不動産を個人名義のまま放置することのリスクを、ほとんど把握されていないことに気づきました。実は、対策を後回しにするほど、相続が発生したときに「なぜもっと早くやらなかったんだ」と後悔するケースが非常に多いのです。
今回は、個人名義で不動産を抱えたまま相続を迎えると起きやすい3つの落とし穴を整理しました。
落とし穴① 相続税を数百万円多く払ってしまうリスク
不動産を個人名義で持っている場合、相続税の計算における「評価圧縮」の手段が限られてしまいます。路線価方式や固定資産税評価額を使う方法はあるものの、それ以上に圧縮するのが難しい。
一方、生前に不動産を法人に移転しておくと話が変わります。相続の対象が「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」になるため、株式評価の計算過程でさらなる圧縮ができるケースがあるのです。実際に、法人化の前後で相続税評価が数百万円単位で変わった事例は珍しくありません。
「うちはそこまで財産がないから…」と思っていても、東京近郊の物件なら1棟で評価額が1億円を超えることも普通にあります。早めに試算してみることを強くおすすめします。
落とし穴② 家族間で揉めて、最悪は強制競売になる「争続」リスク
「相続」が「争続」になる——これは笑えない話です。特に不動産は、現金や株式と違って物理的に「半分に切って分ける」ことができません。
子どもが3人いるとして、アパートが1棟あっても、それを3等分することは現実的に不可能です。「長男が引き継ぐなら、次男と三男には現金で代償しろ」となりますが、現金が足りなければ話がまとまらない。協議が長引くと、最終的に家庭裁判所の調停になり、それでもまとまらなければ不動産が強制競売にかけられることもあります。
こうなると、市場価格より大幅に安い価格で売られてしまうだけでなく、家族関係も修復できないほど壊れてしまいます。遺言書の作成や、生前贈与・信託を活用した「分けやすい設計」を今のうちに整えておくことが、家族を守ることになります。
落とし穴③ 家賃収入に最高55%の所得税がかかる高税率リスク
3つの中で、即効性という意味では一番影響が大きいかもしれないのがこれです。
個人名義で不動産を持ち、家賃収入を受け取っていると、その収入は「不動産所得」として他の所得と合算されます。社長のように役員報酬もある方の場合、所得税の最高税率45%に住民税10%を加えた実効55%前後の税率が適用されることも珍しくありません。
100万円の家賃を受け取って、手元に45万円しか残らない——そういうケースが実際に起きています。
一方、不動産を法人名義に移して法人が家賃収入を受け取る形にすると、法人の実効税率は規模にもよりますが概ね22〜34%程度に抑えられます。単純計算でも、同じ収益に対して税負担が10〜20ポイント以上変わってくるわけです。この差が毎年積み重なると、5年・10年でとんでもない金額になります。
「でも今すぐ動くのが難しい」という方へ
3つの落とし穴をお伝えしてきましたが、「分かってはいるけど、具体的に何から手をつければいいのか」と感じた方も多いはずです。
まず最初にやることは一つ、現状の試算を税理士に依頼することです。今の不動産の相続税評価がいくらか、法人化するといくら変わるか、これを数字で把握するだけで、次のアクションが自然に見えてきます。
対策には時間がかかるものが多く、「相続が発生してから考える」では手遅れになるケースも多い。特に不動産の法人移転は、手続きや費用の準備も含めて1年以上かかることがあります。今期中に動き始めることが、最大の節税対策と言っても過言ではありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。