先日、資産管理が専門の税理士仲間からこんな話を聞きました。

「オーナー社長が亡くなって、お子さんが相続手続きに来たんですよ。マンション1棟持ってて、評価額が3億円近い。相続税の試算を見せたら、真っ青になって…」

相続税の最高税率は55%です。もちろん基礎控除や各種特例があるので実効税率はそこまでいきませんが、不動産を複数持っている場合、相続税だけで1,000万円以上の差が出るケースは珍しくありません。今日は「個人名義で持ち続けるか、法人に移すか」という、多くの社長が一度は悩むテーマについて整理してみます。

個人名義のままだと何が起きるか

個人で不動産を所有していると、亡くなったときに相続財産としてそのまま評価されます。路線価ベースで計算されるとはいえ、億単位の不動産があると相続税の負担は相当なものです。

相続人が子ども2人の場合でも、法定相続分に応じた課税が発生します。「不動産は分割しにくい」という現実があるため、相続税を払うために物件を売却せざるを得ないケースも出てきます。せっかく築いた資産が税金で溶けていく、というのはオーナーにとって最も避けたいシナリオのひとつでしょう。

法人で持つと評価の仕組みが変わる

不動産を法人名義にしておくと、相続時の財産は「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」として評価されます。これが大きなポイントです。

法人の株式評価は純資産価額方式や類似業種比準方式などで算定されますが、法人内で減価償却を積み重ねることで帳簿上の資産価値を圧縮できます。結果として、株式の評価額が実際の不動産価値より低くなり、相続税の課税ベースを抑えられるのです。

また、不動産から生じる家賃収入を法人で受け取ることで、法人税(所得800万円超で実効税率約34%)が適用されます。個人の総合課税(最高55%)と比べれば、毎年の税負担も軽くなるメリットがあります。

「今すぐ移す」が正解とは限らない

ただし、個人名義の不動産を法人に移す際には注意が必要です。

個人から法人への譲渡は「売却」として扱われるため、譲渡所得税が発生します。取得価格が低い物件、長年保有してきた物件ほど含み益が大きく、移転コストが高くなります。節税効果が出るまでに数年かかることも珍しくありません。

つまり「法人保有が絶対に有利」というわけではなく、物件の規模・含み益の大きさ・相続人の数・承継のタイムラインによって答えが変わってきます。

判断のポイントを整理すると

個人保有が向いているケース:

  • 物件規模が小さく、相続税の影響が軽微
  • 含み益が大きく、移転コストで得が消える
  • 相続まであまり時間がない

法人保有が向いているケース:

  • 評価額が高く、相続税の負担が重くなる見込み
  • まだ取得して日が浅く、含み益が少ない
  • 子どもへの事業承継も同時に考えている

「うちはどっちだろう」と気になった方は、まず保有している物件の評価額と取得価格の差(含み益)を確認してみてください。この数字が大きければ大きいほど、移転コストの試算が先決になります。

「相続が起きてから考える」では遅い

相続税の対策は、相続が発生してからでは手を打てないことがほとんどです。法人への移転も、評価の圧縮効果が出るまでには一定の時間が必要です。

「まだ元気だから大丈夫」と感じているオーナーこそ、今のタイミングで一度シミュレーションをしておくことをおすすめします。1,000万円以上の差が出る話ですから、税理士への相談費用は確実に元が取れます。

不動産を持っているなら、「個人か法人か」は避けて通れないテーマです。まだ整理できていないなら、今期中に一度試算だけでもやってみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。