先日、賃貸マンションを3棟持つ60代のオーナーからこんな相談を受けました。「毎年、税金でごっそり持っていかれる。なんとかならないか」と。話を聞くと、すべて個人名義で所有していて、税理士からも特に何も言われていないとのこと。その方に法人化の話をしたとき、「そんな方法があったのか」と目を丸くしていました。

個人名義のまま持ち続けるコスト

不動産収入が増えれば増えるほど、個人の税負担は重くなります。所得税は累進課税なので、課税所得が多いほど税率が上がり、住民税を合わせると最大55%という水準になります。賃料収入が年間1000万円あっても、その半分以上が税金で消える可能性があるということです。

一方、法人の実効税率は規模にもよりますが、おおむね34%前後です。この差だけでも相当なインパクトがあります。仮に所得1000万円で比較すると、個人なら約500万円超、法人なら約340万円程度という計算になります。

法人化で使える「所得分散」という武器

税率の差だけでも大きいですが、法人化の本当の強みはそこだけではありません。法人にすれば、配偶者や後継者を役員に就任させ、役員報酬を支払うことができます。

たとえばオーナー1人に集中していた所得を、配偶者にも500万円、子どもにも300万円という形で分散すると、それぞれが低い税率の範囲に収まります。個人の不動産所得では、こうした所得分散は原則として使えません。給与所得控除も加わるため、実質的な節税効果はさらに大きくなります。

年240万円の節税はどこから生まれるか

賃料収入1000万円のオーナーが法人化した場合、条件次第で年間240万円程度の節税が現実的な数字として出てきます。これは税率差と所得分散を組み合わせた結果です。

具体的には次のような要素が積み重なります。

  • 税率差による直接的な節税(個人55% → 法人34%)
  • 配偶者・後継者への役員報酬による所得分散
  • 役員報酬に対する給与所得控除の適用
  • 生命保険料や出張旅費など法人経費の活用

どれか1つで240万円というわけではなく、これらが組み合わさって初めて実現する数字です。

「設立コストが高い」は本当か

法人設立に踏み切れない理由としてよく聞くのが、「設立費用がかかる」「維持コストが増える」という声です。確かに、合同会社なら約10万円、株式会社なら約25万円前後の設立費用はかかります。

ただし、設立コストは初年度だけです。年240万円の節税が継続するなら、初年度に設立費用を差し引いても、単純計算で2年目からはほぼ丸ごと手元に残ります。10年で2400万円の差が生まれる話と考えると、設立コストは「高い」とは言えないはずです。

維持コストについては、税理士報酬や申告費用が個人より増えることは事実です。ただ、節税額が十分に大きければ、そのコストを差し引いても十分なメリットが出ます。

注意したいポイント

法人化はすべてのオーナーに向いているわけではありません。賃料収入が低い段階では、設立・維持コストが節税額を上回ることもあります。一般的には年間の不動産所得が500万円を超えるあたりから検討に値する、と言われています。

また、個人から法人への不動産移転は「売買」という形になるため、登録免許税や不動産取得税が発生します。すでに個人で多くの物件を保有している場合、移転コストと節税効果をしっかり試算してから判断する必要があります。

新たに不動産を取得するなら、最初から法人名義で購入するほうがコストを抑えられます。これから不動産投資を始める方は、最初の1棟から法人を使う選択肢を真剣に検討する価値があります。

今の形が「最善」だと思い込まないこと

個人名義でずっと持ち続けているオーナーほど、「今のやり方が普通」という思い込みがあります。でも、税制は変わりますし、使える手法も時代とともに変化します。

数年前に設計したスキームが、今も最適とは限りません。不動産収入が増えてきたタイミング、相続を意識しはじめたタイミング、後継者が出てきたタイミング、こうした節目に一度立ち止まって税理士に相談することをおすすめします。

「法人化したほうがいいですか?」と聞くだけでも、自分の状況を客観的に見直すきっかけになります。まだ個人名義のまま大きな不動産収入を得ているなら、今期中に一度シミュレーションしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。