先日、都内で飲食チェーンを経営している社長からこんな相談を受けました。

「マンションを3室持っているんですが、収益は個人名義のままで申告しています。とくに問題ないですよね?」

年収が高い社長ほど、この「とくに問題ない」が大きな落とし穴になっています。今回は、不動産収益と法人化の関係について、具体的な数字を交えながら整理してみます。

社長が個人で不動産収益を得ると何が起きるか

給与所得のある会社員や中小企業のオーナー社長が、個人名義で不動産収益を得ると、所得は「合算」されます。これが問題の根本です。

日本の所得税は累進課税なので、所得が増えれば増えるほど税率が上がります。役員報酬として年1,500万円を受け取っている社長の場合、その時点ですでに所得税の税率は33〜40%のゾーンに入っています。

そこへ不動産収益が年600万円乗ってきたとします。この600万円には、最大45%の所得税率(住民税を加えると実効税率で40%超)が適用されることになります。

税額に換算すれば、600万円 × 40% = 240万円以上が税金として消える計算です。

「600万円」という数字に根拠はあるか

よく「年間家賃収入いくらから法人化すべき?」と聞かれます。目安として語られることが多いのが年600万円という数字です。

なぜこの数字が基準になるのか。それは、法人税の実効税率と比べたときのインパクトが「明らかに逆転するライン」だからです。

中小法人の実効税率は、所得規模にもよりますが概ね**22〜34%**程度に収まります。一方、高所得の個人だと40%を超えてくる。この差が15ポイント以上開いた状態で、年600万円の収益を抱えていると、年間90万円前後の税負担差が生じる計算になります。

法人化にかかるコスト(設立費用・維持費・法人税申告費用など)を差し引いても、年単位で見ると経済合理性が成立しやすいのが600万円ラインというわけです。

法人化で変わること、変わらないこと

法人化とは、資産管理会社(ペーパーカンパニーではなく、実態を持つ法人)を設立し、不動産の収益をその法人で受け取る仕組みに切り替えることです。

変わること

  • 不動産収益に適用される税率が法人税ベースになる
  • 役員報酬として社長に支払うことで、給与所得控除が使える
  • 保険・退職金スキームと組み合わせた節税の幅が広がる
  • 相続・事業承継対策にも活用できる

変わらないこと・注意点

  • 物件を個人から法人に移す場合、不動産取得税・登録免許税がかかる(移さずに賃貸管理だけ法人化する方法もある)
  • 法人維持コスト(均等割・税理士費用)は毎年発生する
  • 赤字でも法人住民税の均等割(最低7万円程度)は課税される

ここは税理士と一緒に「移転するか・しないか」「どの法人形態にするか」を慎重に検討する必要があります。

「今はまだ早い」と思っているうちに損が積み上がる

冒頭の社長に話を戻すと、彼は3室のマンションから年間約650万円の家賃収入を得ていました。個人申告のまま5年間続けていたとすると、法人化していた場合との差額は単純計算で450万円前後。それだけの税金が「何もしなかった」ことで余計に発生していた可能性があります。

もちろん、法人化には手間も費用もかかります。それでも、収益規模が一定水準を超えた段階で「一度試算だけでも」やっておくことが重要です。試算して「今は見送り」という判断をするのと、何も考えずに流すのとでは、長期的な資産形成に大きな差がつきます。

不動産収益が年600万円に近づいてきたと感じたら、それが法人化を検討し始めるサインです。来期の決算前に、一度税理士に「うちの場合、法人化の試算をしてほしい」と声をかけてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。