先日、都内で賃貸マンションを3棟持つ60代の社長からこんな相談を受けました。

「自分が死んだあと、子どもたちが物件を売らないといけなくなるんじゃないかと心配で……」

話を聞いてみると、3棟合計の時価は約3億円。相続税の概算を出してみると、税額が7,000万円を超えていました。子どもたちは売らずに引き継ぎたいと思っているのに、税金を払うために売却を迫られる構図です。

これは決して特殊なケースではありません。

個人所有のままでは、不動産の3割が相続税で消える

個人が不動産を持っていると、相続発生時に「路線価評価」で税額が計算されます。路線価は時価の7〜8割程度が目安とされていますが、それでも時価1億円の物件なら評価額は7,000〜8,000万円。

法定相続人が子ども2人の場合、基礎控除は4,200万円です。財産が1億円あれば課税対象は約6,000万円になり、税率は30〜40%に達するケースも多い。結果として2,000〜3,000万円の税負担が発生します。

「不動産は値下がりしないから安心」と思って持ち続けてきた資産が、次の世代へ移転するタイミングでごっそり削られる——これが地主系オーナー社長の多くが直面する現実です。

法人移転で「相続財産の種類」を入れ替える

ここで使えるのが「法人移転」という手法です。

考え方はシンプルで、不動産を個人から法人に移すことで、相続の対象を「不動産そのもの」から「その法人の株式」に変換します。不動産を直接相続する場合は路線価が基準になりますが、非上場株式を相続する場合は「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」で評価されます。

この評価方法といくつかの引き下げ手法を組み合わせると、実質的な相続税評価額を最大8割圧縮できるケースがあります。たとえば時価1億円の物件を法人に移したとします。法人の純資産は1億円ですが、含み益に対する37%の法人税等相当額を控除できる評価ルールがあります。さらに役員退職金の積み立てや借入を活用して株価を引き下げる設計にすると、評価額を2,000〜3,000万円台まで圧縮できることがあるのです。

早く動くほど効果が大きくなる理由

法人移転の節税効果が高いのは、「時間をかけて株価を下げられる」からです。

役員退職金を将来支払う想定で積み立てておくと、その分が負債として株価を押し下げます。10年、20年という長期スパンで設計するほど効果は大きくなります。逆に言えば、相続が近づいてから慌てて動いても効果は限定的です。

60代に入ったオーナーなら、今すぐ設計を始めることが最もコストパフォーマンスの高い選択です。また、子どもへの株式贈与と組み合わせれば事業承継税制も視野に入ります。法人移転は相続税対策だけでなく、事業承継全体の設計と連動している点も見逃せません。

移転コストも試算してから動く

ただし、法人移転はコストゼロでできるわけではありません。不動産を個人から法人に移す際には登記が必要で、主なコストは以下のとおりです。

  • 不動産取得税:評価額の3〜4%
  • 登録免許税:評価額の2%
  • 譲渡所得税:売却益が出る場合に発生

路線価評価5,000万円の物件なら、移転コストだけで200〜300万円になることがあります。これを「高い」と見るか「安い」と見るかは、将来の相続税削減額との比較次第です。将来1,000万円の相続税を節約できるなら、300万円の移転コストは十分に回収できます。ただし、感覚で動かず必ず試算してから判断してください。

どの法人に入れるかが設計の肝

法人移転を検討するとき、既存の事業法人に入れるか、新たに資産管理法人を設立するかという論点があります。

事業法人に入れると、事業リスクと不動産が同じ器に収まります。万が一、本業で大きな損失が出た場合に不動産も巻き込まれる可能性があるため、多くのケースでは資産管理専用の別法人を設立する方が安全です。ホールディングス的な位置づけで、家族への株式配分を設計しながら将来の承継ルートを整理していくイメージです。

家族の人数、相続人への株式の持たせ方、法人の利益水準——これらを組み合わせて最適解を出す作業は、税理士と一緒に進めるのが現実的です。


「相続対策は60代になってから考えればいい」という感覚は、不動産オーナーにとっては大きなリスクになります。法人移転の効果は、設計してから時間をかけるほど大きくなる仕組みです。今40〜50代であれば、今期中に一度、専門家に現状の相続税額を試算してもらうことから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。