先日、60代の社長とお茶をしているとき、こんな言葉が出てきました。

「不動産はそこそこ持ってるんだけどね、死んだら子どもたちが困るだろうなって……」

その社長、都内に賃貸マンションを2棟持っていました。資産としては申し分ない。でも相続という観点から見ると、個人名義のまま持ち続けるのは、実はとても「もったいない」状態だったんです。

個人名義だと、なぜ損をするのか

個人で不動産を保有したまま亡くなると、相続税の計算は路線価(土地)と固定資産税評価額(建物)をもとに行われます。

「時価より低く評価されるんでしょ?」と思う方も多いのですが、それでも時価の70〜80%水準で課税されます。たとえば時価1億2,000万円の物件なら、8,000万〜9,000万円が課税対象になるイメージです。

不動産をたくさん持っている社長ほど、この「70〜80%」が積み重なって、相続税だけで億単位になるケースは決して珍しくありません。

法人に移すと、相続の対象が変わる

ここが今回の核心です。

不動産を資産管理会社などの法人に移してしまうと、社長が亡くなったときに相続の対象となるのは「不動産そのもの」ではなく「会社の株式」になります。

そして、この株式の評価方法に大きなカラクリがあります。純資産価額方式という計算式では、法人税等相当額として37%が控除されます。つまり、不動産を直接相続するよりも、評価額が実質4割近く圧縮されるケースがあるんです。

数字にすると、こんなに違う

評価額1億円の不動産を個人名義で持っていると、路線価評価後の課税対象は7,000〜8,000万円前後になります。

一方、同じ不動産を法人経由で保有していると、株式評価に37%控除が乗ることで、6,000万円台まで評価が下がるケースがあります。差額は1,000〜2,000万円。これが相続税の税率にかかってくるわけですから、実際の税金差はさらに大きくなります。

「3割減」というのは、あながち大げさな話ではないのです。

ただし、飛びつく前に確認すること

ここで「じゃあすぐ移せばいい」と思った方、少し待ってください。

法人への不動産移転には、移転時の不動産取得税・登録免許税がかかります。また法人が不動産を保有し続けると、毎年の固定資産税に加えて法人税の負担も生まれます。移転価格が適切でないと、みなし贈与や低額譲渡として税務署に目をつけられるリスクもあります。

要は、目先の相続税削減だけでなく、移転コスト・ランニングコスト・税務リスクを総合的に試算しなければ、「やったけど損だった」という結果にもなりかねません。

相続対策は「今」が仕込みどき

相続税の対策は、亡くなる直前に始めても間に合わないことがほとんどです。特に不動産の法人移転は、手続きの準備から税務上の整合性まで、数年単位で計画するものです。

複数の物件を持っている社長、将来お子さんに事業を引き継がせる予定がある社長には、一度「今の不動産が相続発生時にどう評価されるか」を税理士に試算してもらうことをおすすめします。

その数字を見るだけで、危機感と対策の方向性が一気に明確になります。「まだ先の話」と思っているうちに、時間は確実に過ぎていきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。