先日、年商4億円の製造業を経営するT社長から、こんな相談を受けました。「昔から持っているマンションがあるんですけど、これって法人に移した方がいいんですかね?」と。
試算してみると、T社長の場合、毎年140万円近い差が生まれていることがわかりました。10年で1400万円超えです。この数字を伝えた瞬間、社長の顔色がサッと変わりました。「そんなに違うなら、もっと早く聞いておけばよかった」とつぶやいていたのが印象的でした。
個人保有の落とし穴——給与収入と「合算」される
なぜ、個人名義で不動産を持つと損をするのか。仕組みは意外とシンプルです。
年収の高い社長は、所得税の最高税率45%+住民税10%、合計55%が適用されるゾーンにいます。問題は、不動産収入が給与所得と合算されて課税される点です。つまり、家賃収入が入るたびに、その全額に最高税率がかかってくるわけです。
仮に年300万円の家賃収入があったとして、個人で受け取れば税負担は165万円前後。手元に残るのは130万円ほどになります。物件を持っているのに、収入の半分以上が税金に消えていく計算です。
法人名義にするだけで、実効税率が約22%になる
同じ物件を法人名義で保有すると、話がまるで変わります。
法人の実効税率は、現在おおよそ22〜25%程度です。先ほどの年300万円の家賃収入であれば、法人税は66〜75万円ほど。個人保有の165万円と比べると、それだけで90万円近い差が出てきます。
さらに、法人化によって使える経費の幅が広がります。役員社宅として物件を活用することで、家賃の一部を法人負担にできます。修繕費や管理費の計上方法も変わり、個人では落とせなかった項目が経費として認められるようになります。
こうした税率差と経費の活用を合わせると、年150万円以上の差が生まれるケースは決して珍しくありません。
10年で1500万円という現実
「今のままでも大きな問題はない」と思っている社長に、こう問いかけてみてください。10年後、いくら余分に税金を払い続けていますか?
年150万円の差が10年続けば1500万円。20年なら3000万円です。これは節税できたかもしれないお金、つまり純粋な機会損失です。設備投資に回せたかもしれない資金が、毎年税務署に流れ続けているわけです。
不動産収入が出始めた最初の年に法人化を選んでいれば、この差は最初から存在しなかった。気づいたタイミングが「今」なら、まだ取り戻せる可能性が十分あります。
法人化が向かないケースもある
ただし、「全員が法人化すべき」という話ではありません。この点は誤解されやすいので、しっかり触れておきたいと思います。
物件数が少なく収入規模が小さい場合は、法人維持コスト(法人住民税の均等割、税理士費用など)がメリットを上回ることもあります。また、個人名義の物件を法人に移転する際には、不動産取得税や登記費用が一時的に発生します。この初期コストを回収できるかどうかも、判断の材料になります。
相続を前提に動いているなら、法人株式の評価額が相続税に影響するため、相続設計と一体で考える必要もあります。ベストな手法は、その方の収入規模・物件の状況・将来の相続プランによって変わります。一律に「法人化が正解」とは言えないのが正直なところです。
やることはひとつ——まず試算を依頼する
難しく考える必要はありません。税理士に「今の私の状況で、法人化した場合の年間差額をざっくり試算してほしい」と一言頼むだけでいいんです。
数字が出れば、判断は難しくなくなります。差額が大きければ動く準備をする。小さければ現状維持を選ぶ。それだけです。
個人名義で不動産を持っている社長は、今期の決算が終わったタイミングで、一度シミュレーションを依頼してみることをおすすめします。動くなら早いほど、取り戻せる金額は増えていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。